日本産ナガダイゴケ属の2新種
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概要
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著者は1981・82年の2年間にわたり、加賀白山の蘇苔類相の調査・研究をおこなった。この結果、苔類61属134種、ツノゴケ類2属2種、蘇類130属265種を確認することができた。この調査・研究によって得た若干の知見の詳細については、今後報告を続けて行きたい。本論文ではナガダイゴケ属の2新種について述べた。ハクサンナガダイゴケTrematodon hakusanensisの2点の標本はともに殿ヶ池小屋から観光新道をやや下った地点で採取された。ススキゴケと似た環境に生育していた。登山道山側のややえぐれて腐植土が垂れている場所では本種は小さな群落を点々とつくっていた。国立科学博物館の標本枯中にもこの種にあたる標本を確認した。これも産地は白山であった。ハクサンナガダイゴケは、植物体のほとんどすべての部分が非常に薄膜な細胞からなりたっていること(そのため植物体は繊弱である)、朔歯が脱落しやすいこと、および朔歯の歯の部分にパピラが全く見られないことが大きな特徴である。朔歯が脱落しやすいことは、カナダから報告されたTrematodon montanusで知られていた形質である。しかし本新種は朔歯の形や葉形といった形質においてT. montanusとはまったく異なる。エゾナガダイゴケT. campylopodinus、シマオバナゴケT. semitortidens(ともに日本産)の2種は、朔柄が短いこと、葉身部の細胞が薄膜であることなどの点で本新種とは近縁と思われる。しかしエゾナガダイゴケは朔歯の歯の部分の形とパピラの程度、葉の肩部の細胞の形などで本新種とは異なる。一方シマオバナゴケは植物体が生きているときでも黄金色であることのほか、葉身部以外の細胞が厚膜であることなどで区別される。シマオバナゴケの朔は強く弓形に曲るとある(TAKAKI,1962)が、神戸大学の土永浩史氏が屋久島で採集された標本では朔は弱く傾く程度であった。ユミダイゴケT. longicollisについて多くの標本を調べたところ、同様に朔の曲り具合には様々の程度のものが見られた。これらのことから判断して、朔の曲り具合は安定した形質とは考えられない。またハクサンナガイゴケの朔歯にはパピラが見られないが、これがどの程度安定した形質であるのかについては今のところ不明である。ユミダイゴケでは朔歯の歯の部分のパピラの程度は実に様々であり、極端な場合には1つの朔の16本の歯のうち数本だけが縦筋をもたずパピラのみからなることさえある。このことを考慮すると、ハクサンナガダイゴケにおいても今後標本が集積された時点でこの点について再検討されなければならない。アカマルゴケTrematodon brevicarpusは、南竜ヶ馬場の南西部、テント場として新しく整地された場所のはずれの土上に小さな群落をつくっていた。微小な種で目につきにくい。偶然その横に腰をおろしたので見つけることができた。周辺をくまなく探したが、他には見あたらなかった。本種はユリミゴケTrtraplodon angustatusを小さくして朔を赤黒くしたような印象を与える。植物体が微小であること、朔柄が短いことなどの点でカナダから報告されたTrematodon boasiiに似ているが、口環の数、朔の色、朔歯の歯の形などの点で異なっている。朔が赤黒味をおびるという特徴は、日本産の種では他にシマオバナゴケとキンシナガダイゴケT. ambiguusに見られる。日本に産するナガダイゴケ属はこれまで5種が報告されていた(TAKAKI,1962)が、今回報告した2種をあわせて7種となる。この7種は以下のとおり検索される。1.朔柄の長さは10mm以上。…2 1.朔柄の長さは8mm以下。…4 2. 朔歯の歯は内面、外面ともパピラからなり、縦筋はない。また2裂せず、穴のあくこともない。…マエバラナガダイゴケT. mayebarae TAKAKI 2.朔歯の歯は頂部にパピラをもつが、外面下部には明瞭な縦筋をもつ。また多くの穴があく(稀に2列する)。…3 3.葉身部は中助に沿って頂部に届く。葉身細胞は薄膜。朔は薄茶色。頸は本体の2倍以上の長さがある。肉眼で雌包葉は目立たない。…ユミダイゴケT.longicollis MICHX. 3.葉身部は肩の部分で急に狭くなり、頂部に届かない。葉身細胞は厚膜。朔は赤色。頸は本体とほぼ同長。肉眼で雌包葉がよく目立つ。…キンシナガダイゴケT. ambiguus (HEDW.) HORNSCH. 4.朔は薄茶色。茎の横断面で外周の細胞は薄膜。…5 4.朔は赤〜赤黒色。茎の断面で外周の細胞は厚膜。…6 5. 葉の肩部の細胞は細長く薄膜。中助は基部で不明瞭。顎は本体の1.5から2.0倍の長さ。朔柄は長さ4-7mm。朔歯はふたとともにはずれる。朔歯の歯は穴があくが2裂することはなく、パピラは全くない。胞子は直径20-25μm。…ハクサンナガダイゴケT. hakusanensis H. AKIYAMA 5. 葉の肩部の細胞は小さく方形で厚膜。中助は基部でも明瞭。顎は本体とほぼ同長。朔柄は長さ5-8mm。朔歯はふたがはずれたあとも残る。朔歯の歯は明瞭に2裂し、外面の頂部と内面にパピラがある。胞子は直径27-30μm。…・/textarea></td></tr><tr><td width="50%"><a href="help_create_kiji.html#abse" target="help">ABSE [抄録(欧)]</a></td><td width="50%" colspan="2"><textarea name="abse" cols="45" rows="5" tabindex="18">
- 1984-05-29
著者
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