酵素多型を用いた日本産コウキクサ(広義)の再検討
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
コウキクサは, 葉状体にやや厚みがあることと, 根端が鈍頭で根鞘に翼がなく, しばしば根の付け根や葉状体(特に裏面)が紫色に色付くことが特徴で, 同定はそれほどむずかしくはない。しかし, 他のアオウキクサ属植物と混同されて, 我が国における分布実態について正確な情報はなかった。文献によっては, かなり稀な種のように記載されているが, 最近の調査で実際には全国各地に分布することがわかってきた。ところがLandolt(1980)は, 日本のコウキクサは欧米に分布する狭義のコウキクサL.minor s.s.とは別種であるとして, 新種L.japonica(ムラサキコウキクサ)を記載した。Landoltは, 日本に分布するのは全てムラサキコウキクサで, 狭義のコウキクサは分布しないとしたが, 私たちはこの見解に疑問を持ち, 日本産コウキクサ(広義)の変異を調査した。日本各地から採集した119系統について調べた結果, まず酵素多型分析によって大きく3型(X, SとS', NとN')に分けられることがわかった。S型は, 染色体数2n=50で, 葉状体にやや厚みがあり, しばしば紫色に着色する特徴をもつ。N型は染色体数2n=40で, 葉状体はほとんど膨らまず, 紫色の着色はいかなる場合も見られなかった。X型は冬になると葉状体が殖芽となって水中に沈むという特色をもつ。これらの型を今までに報告されてきた分類群の記載と比較検討した結果, それぞれムラサキコウキクサL.japonica, コウキクサ(狭義)L.minor s.s., キタグニコウキクサ(新称)L.turioniferaに相当すると結論した。種の範囲を狭く取った場合, 日本には3種のコウキクサ類が分布することになった。これら3種の分布調査は今後の課題であるが, 西南日本ではムラサキコウキクサが多く, 日本海側ではコウキクサ(狭義)の出現頻度が高いようである。キタグニコウキクサは今のところ北海道東部からしか確認されていない。なお, 角野(1994)では, L.turioniferaを「エゾコウキクサ(新称)」としたが, この和名は不適切と考え, 新たにキタグニコウキクサを正名として提案したい。
- 日本植物分類学会の論文
- 1995-01-28
著者
-
角野 康郎
神戸大学理学研究科生物学専攻
-
角野 康郎
神戸大学理学部生物学科
-
平碆 雅子
神戸大学理学部生物学教室
-
角野 康郎
神戸大学理学研究科
-
平碆 雅子
神戸大学理学部生物学教室:(現)関西環境管理技術センター
関連論文
- 北九州市お糸池における自然雑種インバモの起源と現状
- 外来植物ウチワゼニグサの除去方法の効果の検証--地上部のみを刈り取った場合
- オオカワヂシャの生態と分布の現状
- 兵庫県南部におけるコモウセンゴケとトウカイコモウセンゴケの分布
- 自然再生事業指針
- 多自然型川づくりシンポジウム報告
- 達古武沼における過去30年間の水生植物相の変遷 (特集 釧路湿原達古武沼の自然再生に向けて)
- 日本産雌雄同株及び雌雄異株クロモの染色体数と地理的分布
- 近畿地方新産植物補遺1
- 近畿地方におけるバイカモの分布に関する追記 : 滋賀県の移入産地と新産地ほか
- 和歌山県荒見井水路の改修にともなうリュウノヒゲモ群落保全の取り組み
- 日本産野生維管束植物レッドリストの調査・判定方法と判定結果の特徴
- 日本産野生維管束植物レッドリスト
- カワゴケソウ属の新種タシロカワゴケソウの記載
- ため池の水草たちよ (特集:野生の植物たちを護れるか,このジレンマ)
- 「保全生態学研究」の次のステップを目指して
- 近畿地方におけるバイカモの分布と生育状況
- パネルディスカッション/「生物多様性」を考える (特集/第26回環境保全・公害防止研究発表会)
- 釧路湿原の3湖沼の水草について
- ため池の植物群落 (特集 農村生態系と保全技術) -- (特集1 農村生態系(水田を中心として))
- 湿地生態系とそのはたらき (特集1・湿地生態系とその保全)
- 日本の水草の危機 (〔プランタ〕100号記念特集:絶滅危惧植物の現状)
- 世界の水草たち (特集 21世紀の植物の世界は)
- 沼と池の植物たち--失われた楽園 (特集 水辺の植物たち)
- 水辺の環境と絶滅危惧生物--水草を中心に (生物多様性とその保全) -- (生息環境の変容と絶滅危惧生物)
- 外来水生植物ミズヒマワリの種子形成とその発芽特性
- 水辺環境の危機と水草の絶滅 (生物はなぜ絶滅するか)
- 「20周年記念特集」にあたって
- 〔水草関係〕文献リスト
- 兵庫県産水草目録(新)
- 環境庁版レッドリスト(1997)に挙げられた水生植物
- 水草ブームと外来水生植物 (特集 外来種による生態系の攪乱と水環境への影響)
- 日本産タチモ(アリノトウグサ科)の染色体数
- ヒメホテイソウの学名
- 水生タヌキモ属植物6種の繁殖様式
- 岐阜県西濃地域の湧水地に遺存分布するハイドジョウツナギ(新産地報告)
- 日本に侵入した帰化水草オオカナダモとコカナダモにおける遺伝的変異の欠如
- 日本産キンポウゲ属バイカモ亜属の分類について
- R. M. LOWDEN, 1982, An approach to the taxonomy of Vallisneria L. (Hydrocharitaceae), Aquat. Bot, 13, 269-298.
- キシュウスズメノヒエの二型について
- Cook, C. D. K. & R. LUOND, 1983, A revision of the genus Blyxa (Hydrocharitaceae). Aquatic Botany, 15: 1-52.
- イヌイトモを日本のフローラに追加する
- 日本産ヒルムシロ属の2新雑種〔英文〕
- セタカミズオオバコの正体
- ヒルムシロ属の実生の葉にみられる気孔について
- 異なる栄養条件下におけるヒシモドキの成長と繁殖
- 神戸市住吉川におけるウチワゼニグサの分布拡大の記録
- 外来水生植物ウチワゼニグサの成長と繁殖様式
- 兵庫県加古川水系の水生植物相:2003年の状況
- デジタルカメラで撮る水草写真
- 藤井報文に対する抗議文について
- オニバスに関する文献目録(改訂版)
- クログワイとシログワイの分類と比較生態
- 人の営みと生物多様性?ため池の現状から
- ヨシ原の生態一座談会を読んで-
- 中池見湿地の水生植物の保全
- 帰化植物による在来の自然への影響
- 植物種保護の諸問題
- 「多自然型川づくり」の現場 (特集・多自然型川づくりの10年)
- ギフヒメコウホネ
- 琵琶湖・淀川水系におけるヨシとツルヨシ(イネ科ヨシ属)の分類
- 日本産ヒシ科数種の核形態
- タガラシの冬一年草生活史とその発芽特性
- マルコフ連鎖を用いた兵庫県東播磨地方のため池植生の将来予測
- ヒメコウホネ(広義)の分類と生育地の現状について
- 兵庫県東播磨地方のため池における過去約20年間の水生植物相の変化
- 農業土木技術者のための生き物調査(その10・最終講) : 水生植物調査法
- 河川環境の保全と復元-特集にあたって
- 中池見湿地の植物相の多様性と保全の意義 (低湿地生態系の保護 : 中池見湿地を中心に)
- 追い詰められる水草 : 現状と保全の課題
- 日本の水草研究 -その現状と課題-
- 酵素多型を用いた日本産コウキクサ(広義)の再検討
- 日本産ヒシ属の分類地理学的研究
- 日本のイボウキクサ
- 水生植物ミズオオバコ(トチカガミ科)の成長と繁殖特性
- 西南日本のため池における絶滅危惧水生植物マルミスブタとスブタ(トチカガミ科)の季節成長と繁殖生態
- 酸素欠乏が, 沈水植物の光合成能及び呼吸能に与える影響
- 栃木県野元川に産するヒルムシロ属の新種
- 兵庫県東播磨地方のため池における「チクゴスズメノヒエ」の分布 : 類似した生態的地位を占めるイネ科水生雑草3種との比較
- 日本の絶滅危惧種の現状について : 減少要因としての食害
- 外来植物研究への期待 : 種生物学の課題
- 印旛沼に産するヒルムシロ属の種間雑種
- マルバオモダカの雌蕊数について
- 絶滅危惧水草の保全 : 維持管理の重要性(野生生物保護管理の最前線 日本の野生植物の現状)
- デジタルカメラ写真を用いた非破壊的な浮葉の葉面積計測法
- 「保全生態学研究」編集委員長を継続するにあたって
- マルバオモダカの殖芽の形態変異と奇形
- 日本新産の水草チシマミズハコベ
- 加古川(兵庫県)の水生植物
- 日本産ヒシ属の変異に関する予察的研究
- 日本産ヒルムシロ属の比較生態, 特に生育型と生活環について
- 水生植物の分布とpH, アルカリ度, カルシウムイオン, 塩素イオン, 電気伝導度の関係について
- 日本のモウコガマ : 兵庫県産「モウコガマ」の再検討
- 自然史研究の評価基準を考える-大学の現場から