日本産アオイカズラ(ツユクサ科)の新学名
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概要
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アオイカズラは1年生のつる草である。葉身は心形,長い柄があり,筒状になった膜質の葉鞘がある。側枝が伸びてくると,葉鞘の下半部は葉柄がつく側で縦に裂開し,その穴から側枝が出る。花序は長い花梗があり,その先に1枚の葉状苞がある。さらに上部の苞は小さい。1つの花序は4から13個の花がつき,ほとんどが両性花である。牧野富太郎(1907)は岡山県阿哲郡萬栄村矢戸で吉野善介が採集した標本(1906年10月14日)に基づいてアオイカズラの和名を与え,学名としてStreptolirion cordifoliumを当てた。この学名はS. volubileの同義名であるが,ヒマラヤの植物につけられたもので,その後中国や朝鮮からも報告されていた。近年,ヒマラヤやタイ国から多数の資料が集められ,日本の植物との比較検討が容易になった。筆者ら(1988)は日本におけるアオイカズラの分布を調べたさい,日本のアオイカズラはヒマラヤやタイ国産のS. volubileとは異なっていることを指摘した。その後多数の資料を比較した結果,アオイカズラは別種であると考え,特徴的な花序の苞の形から学名はS. lineareとして記載発表することとした。アオイカズラとS. volubileはともに変異の多い種であるが,両者は次のような特徴で容易に識別できる:葉や葉状苞の縁にはアオイカズラでは透明で短い毛があり,S. volubileでは肉眼で容易に認められる褐色の長い毛がある;アオイカズラは花序が原則として総て両性からなり,実のつきがよいのに対し,S. volubileでは葉状苞につく花が両性(しばしば雄性)で,小形の苞につく花が雄性であり,実のつきがきわめて悪い;小形の苞についてはアオイカズラでは小さく,線形,希に皮針形または狭い楕円形で,無毛であるが,S. volubileでは大きく,卵形,楕円形または皮針形で,先は細長く尖り,縁毛がある;花はアオイカズラより,S. volubileの方が大きい;花弁はアオイカズラが長さ4-5mm,幅0.3mm,S. volubileが長さ6-7mm,幅1mmである。アオイカズラは日本,朝鮮,中国東北部と北部に,またS. volubileはヒマラヤ,ビルマ,タイ国北部,ラオス,ベトナム北部,中国にそれぞれ分布している。花梗の出方には2通りある。一つは腋芽が葉鞘を貫通して出てきた短い側枝に花梗が頂生する。他の一つは通常葉のつく節に花梗ができる場合である。この葉の葉鞘は短く,花梗はもちろん仮軸分枝をする腋芽も葉鞘を破ることはなく,葉鞘の口から出てくる。S. volubileの花梗は前者の形である。日本のアオイカズラでは後者の例が普通で,ごく希に前者の例がある。中国のアオイカズラには前者と後者の混じった標本もある。
- 日本植物分類学会の論文
- 1991-06-25
著者
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