サジラン属の大型の2種に見られた葉の関節
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概要
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サジラン属のシダは東南アジアの熱帯を中心に約40種近く知られている。この属の分類学的位置について異なる様々な考えがなされてきた。その原因のひとつにこの属の葉が、根茎と関節するか否かの評価に相違があることが挙げられる。COPELAND(1947)やHOLTTUM(1955)等は、サジラン属の葉は根茎と関節しないと考えた。一方田川先生(1943)は、関節の存在を示唆された。これらの主張は、いずれも野外での観察または〓葉標本による外部形態にもとずくもので、BASECKE(1908)やPHILLIPSとWHITE(1967)等のように、葉柄の内部構造やその発生にまで立入った観察にもとずくものではないようであった。そこで筆者(1974)は、サジランゾクノサジラン、イワヤナギシダ、ヒメサジラン、Loxogramme lankokiensisに、葉が根茎と関節するといわれるウラボシ科と、サジラン属との類縁が問題とされるヒメウラボシ科の数種を加えて、葉柄の内部構造を詳細に観察した。そして、サジランやイワヤナギシダの葉は、ウラボシ科に見られるものと同様に、根茎と関節するという結果を得た。このとき筆者は、サジランよりはるかに大型の葉を持つ種では葉の関節はどのようなものであろうかという疑問を持った。1982年に、筆者はタイとマレーシアにおける植物調査の一環として、これらの国に分布する大型のサジラン属の葉の関節を調べる資料を得ることに努めた。そして、loxogramme aveniaとL. scolopendrinaの資料を今回観察することができた。観察の要点は、成熟した葉の葉柄基部の構造、極く若い葉の同じ部位の構造、葉を落とした後の根茎の構造の3点である。L. aveniaの成熟葉では、葉柄基部にある葉足は直径が3-4mm、高さ約3mmであった。葉足とその上の葉柄の直径はほぼ同じで、葉足は表面に密な鱗片をつけるという点で葉柄から区別される。放射断面では、葉柄の長方形または長楕円状菱形の細胞群と葉足の短矩形の細胞群の間に、4〜5層から成る小型の短矩形の細胞群が見られた(図1,3)。このような葉柄基部の構造は極く若い葉でも同様のものであった。さらに、葉が落ちた後の葉足では、この小型の細胞群の所で落葉が起ったことが示され、葉足上部にタンニンの沈着が見られた。これらの観察は、サジランやウラボシ科のものと良く一致するものであった。一方、より大型の葉を持つL. scolopendrinaでは様子が違っていた。この種の成熟した葉では、葉足が直径が4-7mm、高さが4-6mmであった。葉柄基部の放射断面では、葉柄と葉足の境に、L. aveniaに見られるような明瞭な小型の細胞群は認められず、葉柄の細胞と葉足の中間的な形にのやや小型の、6〜8層の細胞群が観察された。この細胞群の部位は、顕微鏡を用いずに見ると、タンニンを含まない白いUまたはV字状の筋として良く判別される。そして、落葉はこの部分で起きているようである。L.aveniaの葉柄と葉足の間に見られる小型の細胞群は、サジランの観察で述べたと同じく,PHILLIPSとWHITE(1967)のいう離層であって、これは葉の極く若いときから存在し、この離層の所で落葉が起るのである。L. scolopendrinaでは、離層として明瞭に他と区別できる細胞群はないようであった。しかし、これは、いわゆる離層が存在しないのではなく、L. aveniaのそれよりも、はるかに多層の細胞層から成っていて、葉柄の細胞と葉足の細胞の中間の形をしているものと考えた方が良いように思われた。L. scolopendrinaの葉柄基部の構造は、この種が特に大型の葉を持つことと関係がありそうである。結論として、ヒメサジランやL. lankokiensisのような極端に小型の種は別として、サジラン属の大部分の種の葉は根茎と関節するといえるであろう。
- 日本植物分類学会の論文
- 1984-05-29
著者
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