サジラン属の分類上の位置
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概要
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サジラン属には熱帯アジアを中心におよそ35種が知られている.この属の分類学的位置については,ヒメウラボシ科,狭義のウラボシ科,イノモトソウ科などとの類縁関係が主張されたり,一属からなるサジラン科が提唱されているが,まだ定説はない.それは取りあげられた形質の評価が十分になされていないためと考えられる.筆者は問題となる形質を再評価することによってこの属の分類学的位置を明らかにしようと試み,胞子 (1971) と葉柄の関節 (1974a) についてはその結果を本誌に発表した.本報告ではこれらに加えて,根茎の維管束,脈理,表皮細胞,胞子嚢,胞子嚢群,鱗片の諸形質について再検討した結果を報告し,これに基づいてサジラン属の分類学的位置について論議した.表皮の紡錘形異形細胞,タキミシダ属に似る遊離小脈を含まない網状脈理及び gymnogrammoid coenosorus の存在,葉柄の関節の欠如等の形質を根拠に,C_<HING> (1940) は一属から成るサジラン科を提唱した.筆者の観察によれば,これらの形質はサジラン属で特徴的ではなかった.即ち表皮の異形細胞は観察されず,表皮はシダ植物に広く見られる一般的なものであること,脈理はウラボシ科に見られるものと同じ drynarioid 型で遊離小脈を含むこと,胞子嚢群はウラボシ科のイワヒトデ属に見られるものと同じ型のものであること,葉は根茎と関節することが示された.従って C_<HING> の主張は筆者の研究からは支持できないものである.一方,サジラン科を認める考えは,W_<ILSON> (1959) によっても提唱されている.彼はサジラン属の胞子嚢は柄の基部が一列の細胞から成ること,胞子嚢の開口部と環帯の間にある epistomium が5個の細胞から成ることで特異的なものであることを重視している.しかし筆者の観察ではそのような特異的な形質は認められず,サジラン属の胞子嚢はイワヒトデ属やホコザキウラボシ属と同様であった.サジラン属の分類に関しては C_<OPELAND> (1947, 1952, 1960) と H_<OLTTUM> (1940, 1954) を代表とする二つの相対立する考え方を検討する必要がある.前者はサジラン属の大部分の種が四面体型胞子を持ち,葉柄の関節が欠如することを重視してこの属をヒメウラボシ科のものと考えた.後者はこの属が根茎の維管束の構造,鱗片,脈理の形質においてイワヒトデ属と同様であり,かつ大部分の種が二面体型胞子を持つと主張してこの属をウラボシ科に入れた.ヒメウラボシ科は一般に小形であり,鱗片や葉には特異的な剛毛があること,多くの種の葉は根茎と関節しないこと,脈理は通常遊離で稀に単純な網目をつくるが,決して drynarioid 型のような複雑なものを作らないこと,四面体型の胞子を持つこと等でウラボシ科と区別される.筆者の観察に基づいて C_<OPELAND> と H_<OLTTUM> の主張を吟味すると,四面体型胞子を持つ種があることを除いてサジラン属の諸形質はウラボシ科のものと良く一致する.胞子の形質についてみても,すでに検討した (近田,1970) ように,サジラン属をウラボシ科に帰属させるという結論に重大な矛盾を提起するものではない.
- 日本植物分類学会の論文
- 1978-11-30
著者
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