野焼きがオオルリシジミの発生に及ぼす影響
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概要
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阿蘇地域におけるオオルリシジミの生息地は, 外輪山内壁と内輪山の標高400∿800mの地域に集中しており, クララの自生している地域に多く生息していることが解った.本種の生息地は, 毎年, 早春に野焼きを実施している草原に限られる.ルートセンサス法による個体数の年次変動の調査の結果, 早春の野焼きを継続している地域では, 本種の個体数が減少することもなく, 逆に早春の野焼きを停止した地域では, 個体数が著しく減少していることが判明した.しかし, 2∿3年のうちに野焼きを再開すると個体数が回復の方向へ推移することがわかった.阿蘇地域の本種が利用する吸蜜植物は, 現在までに8属8種を確認したが, 野焼き停止後数年を経過すると, これらの吸蜜植物ばかりでなく食草であるクララも減少し, ススキ等のイネ科植物の侵入によって生態系が大きく変化していることが観察された.また, 野焼きの停止は, クララの生長を悪化させることがわかった.このことから, 野焼きの停止による生息環境の変化は, 本種の個体数を著しく減少させる大きな要因の1つであると考えられる.早春における野焼きの実施は, 食草であるクララや吸蜜植物を保護し, 本種の生息環境を維持する上で有効な管理法であり, その実施は, 本種が羽化する2∿3カ月前に行う必要がある.また, クララの生育期間中の除草や採草も回避するべき作業であると考えられる.しかしながら, 畜産農家の高齢化や人手不足などから, 野焼きの実施地域は年々減少傾向にあり, 本種の存続には憂慮すべき状態となりつつある.現在, 熊本県, 阿蘇町および白水村によって全国的にも貴重な本種の保護を目的とした条例が制定されており, その内容は, 本種の全ステージの採集を禁止するものであるが, 採集禁止のみによる保護では甚だ不充分で, 野焼きの実施による生息環境の維持管理に意をそそぐ必要があると考えられる.
- 日本昆虫学会の論文
- 1998-06-25
著者
-
野原 啓吾
九州東海大学農学部応用昆虫学研究室
-
村田 浩平
九州東海大学農学部応用植物科学科
-
阿部 正喜
九州東海大学農学部
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野原 啓吾
九州東海大学農学部
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村田 浩平
九州東海大学農学部応用昆虫学研究室
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村田 浩平
九州東海大・総農研
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村田 浩平
九州東海大学農学部農学応用植物科学科
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