ナポリ人文主義の成立と展開 : アラゴン王朝の現実と理念との狭間にて
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概要
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B・クローチェの指摘を侯つまでもなく、ルネッサンスの人文主義は何よりも生の哲学であり、現実的、世俗的な世界観の哲学であった。スコラ弁証法を対象をもたぬ抽象概念としてしりぞけ超越的な理念を排し、かれら自身の時代の現実、物自体に向かわねばならぬとした。思想そのものも社会的、政治的条件の形相であり、推移するものであるとみなされた。古典古代の教訓と、その権威も現実に実践しうる範囲内で最良のものとされ、実際的生活の現在と結び付いた世俗性に於てのみ模範たりえたのである。一五世紀アラゴン王朝成立前後から王朝没落にいたる五代の歴史はまさに変遷目まぐるしい政治、社会の変動の一時期であったから、この状況下に生き感覚し、そこから演繹されたナポリの人文主義思想が現実の政治、経済の激しい推移を反映して、一層現実的な色合いを濃くし、現実に根を降したものとなったのは、当然のこととおもわれる。人文主義者にとっては普遍的な理念や、命題は個々の経験から独立するものではなく、個々の体験から導かれる結論でなければならなかった。各々の様々な現世的、政治的要請にこたえる形でなりたったナポリの人文主義思想は一つのスタイルでしめくくれる運動でなはく、多種多様な問題をはらむ広範な文化活動たらざるをえなかったのである。時代の精神が如何に社会によって制約され、また逆に精神が社会に如何にはたらきかけうるか、いわば精神の社会的機能が如何なるものかを、アラゴン王朝の体制下のナポリ人文主義の変遷と推移のなかで明らかにしたい。
- イタリア学会の論文
- 1980-09-15
著者
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