指数的流加培養法に対する感度解析
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概要
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メタノールを炭素源とする微生物の指数的流加培養法(EFBC)を表現するシステム方程式に含まれる7つのパラメータ(F_<M0>, k, V, Y, μ_m, K_sおよびK_i)に対する感度解析, ならびに状態変数である菌体濃度C_xと基質濃度C_sそれぞれの初期値C_<x0>, C_<s0>に対する感度解析を行った.まず, 連立常微分方程式で表されるシステムに対する感度解析を簡単に述べた.その際, パラメータや初期値の相対的誤差(あるいは相対的変動)によって生じる状態変数の理想状態(C_x=C_<x0>e^<kt>, C_s=C_<s0>=const.)からの相対的変動を求めるのに便利な"相対"感度係数を定義した.増殖速度式において, C_sの増加とともに比増殖速度μが増加する領域(I), C_sが増加してもμはほとんど変化しない領域(II), およびC_sの増加とともにμが減少する領域(III)の各領域で代表的なC_sの値を選び出し, それらの各値と, C_<x0>=1.0 g/l, Y=0.3 g/g, V=5.0l, μm=0.181 hr^<-1>, K_s=1.56×10^<-3> g/l, K_i=25.0 g/lを用いて, 感度方程式をコンピュータで解き, 感度係数の20時間にわたる経時変化を求めた.感度解析の結果から得られた知見は次の通りである.(1)Yの相対感度係数とF_<M0>のそれとは一致する.また, Vの相対感度係数は, YやF_<M0>のそれと符号が反対で, グラフの形はきわめてよく類似している.よって, EFBCを実施するにあたっては, これら3つのパラメータは, 同程度の精度で設定ないし測定しなければならない.(2)Vの相対感度係数から, システム方程式を導くにあたっての仮定 : V=一定, を検討できる.Vの変動によって, C_sは多少変動するが, C_xの相対的変動は小さい.よって, EFBCにおいては, Vが多少変動しても, C_xは指数的に増加すると言える.(3)kおよびμmの相対感度係数はすべての相対感度係数のうちで最も大きい.したがって, kおよびμmは係数はできるだけ正確に, 設定ないし測定しなければならない.(4)K_sおよびK_iの相対感度係数は小さいので, これらのパラメータの値は大ざっぱに求めればよい.(5)EFBCを流加開始後直ちに首尾よく実施するるためには, C_<s0>はある値に設定されなければならないが, これは実際上困難であるので, C_<s0>の感度解析は重要である.幸い, C_<s0>の相対的誤差によるC_xおよびC_sの相対的変動は, C_<s0>がどの領域にあってもきわめて小さい.とくに, C_<s0>が領域(I)に存在する場合, C_sは半時間以内に一定値に収束する.初期値の感度解析によれば, その系がどの程度安定か, または, どの程度不安定かが定量的にわかる.(6)各パラメータの相対的変動および各状態変数の初期値の相対的誤差が状態変数におよぼす影響の大小を比較すると, (k, μm)>(F_<M0>, V, Y, C_<x0>)>(K_s, K_i, C_<s0>)の順である.よって, これらのパラメータあるいは初期値はこの順序で正確に設定ないし測定しなければならない.(7)領域(I)においては, どのパラメータが変動しても, C_xおよびC_sの相対的変動はきわめて小さいので, EFBCはこの領域で最も容易に実施できる.領域(III)においても, 相対感度係数は, かなりの時間零近くに止まっているので, 操作は比較的容易である.しかし, 領域(II)においては, C_sの相対感度係数は最初の数時間で著しく変化するので, C_sを一定にするのはもっとも難しい.結論として, 発酵プロセス方程式は, 一般に, 不確かなパラメータを多く含むので, このプロセス方程式によって発酵プロセスを最適に, 設計, 操作, 運転する上で, 感度解析はきわめて有益な情報を与えることがわかった.
- 社団法人日本生物工学会の論文
- 1976-12-25
著者
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吉田 文武
京都大学工学部化学工学教室
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吉田 文武
京都大学 工学部化学工学教室
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岸本 通雅
京都大学工学部化学工学教室
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山根 恒夫
京都大学工学部化学工学教室
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山根 恒夫
京都大学 工学部化学工学教室
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岸本 通雅
京都大学 工学部化学工学教室
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