山廃酒母の亜硝酸生成菌 : (第4報) 低温硝酸呼吸菌の温度感受性な亜硝酸還酵素形成
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概要
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前報までにすでに報告した山廃酒母の初期菌群中より分離したPseudomonas 3733-0株は特異な低温菌である. すなわち0℃で1週間以内に肉眼で検出し得る十分な生育を示し, また生育の最適温度についてはペプトン1%-硝酸カリ1%培地において34℃で全く生育を示さない. さらに培地の組成によっては生育の最高温度はより低い温度となる. 例えばグルコースを単一炭素, エネルギー源とした場合には30℃においても生育は見られない. 生育の最適温度についてはペプトン1%-硝酸カリ1%培地では26℃における生育速度が最も早い, 但し菌体収量に関しては24℃の方が大である. 本菌は好気的条件下で低温菌の特徴を示しペプトン培地では34℃で生育を示さず, 生育の最適温度は26℃である, この条件下では生育速度と生育量は共に最大となる. 以上から本菌株が低温菌であることは明らかであるが, 本菌株のブドウ糖代謝能の形成が温度感受性であることとともに, 本菌株の硝酸呼吸下での生育において, 特に亜硝酸の代謝が温度感受性であることがわかった. すなわちNO^-_3を加えた培地での嫌気生育とくらべて, NO^-_3をNO^-_2に置換えた培地においては生育の最高温度はペプトンを基本培地とした場合もより低くなり, 30℃でも生育しないが, 20℃ではかなりの生育をしめす. すなわち本菌のNO^-_2資化活性がきわめて温度感受性であることがわかる. この現象について二通りの説明が可能である. (1)本菌株の亜硝酸資化活性(亜硝酸還元活性, Ni-Rと略記)それ自体が温度感受性である, (2)Ni-Rの形成が温度感受性である. のいずれかである. まずNi-Rの温度感受性については, 最適温度42℃近くにあり, また60℃における加熱で, 60℃に達してから25秒で未だ81.5%の活性が残存し, また55℃で20分間の加熱で5%の活性が残存していることから今までに報告されている低温菌より得られた熱不安定酵素とは異なっている. したがって次にNi-R活性の形成について実験を行なった. 本菌株は24℃と28℃では硝酸呼吸のもとではほぼ同一の生育速度を示す. しかるにNi-Rの形成については24℃と28℃では生育の各時期を通じて全く異なった様相を示し, 28℃では対数増殖記での生成はきわめて低い, 24℃では対数増殖期の終りにおいても極めて高い活性を示し, Ni-Rの形成が28℃で抑制されていることを示す. これと比較してNa-Rの形成においてはやや28℃の方が高いが, ほぼ似た様相を示しNa-Rの形成は生育の最適温度以上でも急に低下しない. 以上から本菌株のNi-Rの形成が温度感受性であり, 本菌株の低温性を支配している因子の一つであることが明らかとなった.
- 社団法人日本生物工学会の論文
- 1969-12-25
著者
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