わが国の建設業とその再編成(<英文特集>1990年代における日本の経済的地域構造の変貌)
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概要
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バブル景気が崩壊した1990年代以降,わが国の建設業では大きな再編成が進みつつある.本稿は地理学的な観点から1980年代以降における建設業の動きを分析し,今後の動向を展望することを目的としている.本稿では特に土木業と公共投資の動きに注目する.オイルショック後の不況に対する1970年代後半の景気刺激策によって,1970年代の末期にわが国の財政は危機的な状況に陥る.1980年代に入ると欧米諸国では,小さな政府を志向したニューライトの台頭の中で公共投資が縮小し,工事内容でも維持・補修工事の比重が高まる.当時,わが国でも同様の動きが予想され,国はこのようなシナリオに基づいた建設業の産業ビジョンを発表する.しかし,バブル景気がはじまると建設需要は再び拡大し,さらに内需拡大を求める諸外国からの圧力によって公共投資額も再び増加した.これらの動きによって,わが国の建設業は1980年代に大きな再編成を経験することがなかった.しかし,1990年代に入って,バブル景気が崩壊すると民間需要は急速に縮小する.さらに,地価の大幅な下落によってゼネコン,特にバブル期に積極的に開発事業に乗り出した業者の経営状態は急速に悪化する.一方で,1970年代後半と同様に,国は1992年以降,毎年のように公共投資を中心とした景気刺激策を打ち出し,土木業中心の経営を行う地方の中小ゼネコンは好調な業績を上げた.地域的にも需要規模が急速に縮小した大都市圏と,民間需要の縮小を公共投資の拡大で補った地方圏との間で対照的な様相を呈する.1990年代後半に入ると長引く不況と,継続的に実施された景気刺激策によって国家財政は再び危機に陥る.当初,財政改革を主張する人々とさらなる景気刺激策を求める人々との間には激しい対立があった.しかし,1999年に公共投資額が減少に転じると,以後,わずか3年の間に公共投資額は10%以上も減少する.さらに,国は公共事業における事業コストの縮減と入札・契約改革を進め,再び建設業界の再編成を志向した産業ビジョンを発表する.市場の縮小によって経営状態が悪化した大手ゼネコンは事業コストの削減に乗り出し,情報化の進展による業者間競争の激化は,わが国の建設業の特徴の一つである,協力会組織の再編成をもたらしつつある.このように1990年代以降,わが国の建設業では大きな再編成が進んでいる.これは他産業において1980年代に生じた現象が,建設業ではバブル景気によって"延期された"ものと考えることができるだろう.
- 経済地理学会の論文
- 2003-05-31
著者
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