アグロバクテリウムによるBrassica rapa L.の形質転換に影響する諸要因
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概要
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アブラナ,ハクサイ,カブ,ツケナ類を含むB.rapaでは,その再分化能とアグロバクテリウム感染率の低さから,形質転換体の作出が困難とされてきた。本研究では,β-グルクロニダーゼ(GUS)のトランジェント発現系を用いて,アグロバクテリウムの感染率に影響を与える諸要因を検討し,形質転換B.rapa ssp.chinensisを作出することに成功した。コマツナ(品種おそめ)の胚軸を外植体とした。T-DNA上にカナマイシン耐性遺伝子,intron-GUS遺伝子及びハイグロマイシン耐性遺伝子を含むバイナリーベクターpIG121Hmを組み込んだAgrobacterium tumefaciensEHA101を胚軸に感染させた。感染率は共存培養後のGUS遺伝子のトランジェント発現を示す胚軸数から算出した(Fig.2A)。アグロバクテリウムの感染率を増加させるため,共存培養培地のpH(pH5.2,5.8),グルコース,アセトシリンゴンの共存培養培地への添加及びタバコのフィーダーセルの使用について検討した。フィーダーセルを伴ったpH5.2の共存培養培地の使用が有効であった(Tab1e 1)。次に,感染時間及び共存培養温度・期間が感染率に及ぼす影響を調査した。1-3日間の共存培養期間の延長は感染率を著しく増加させた。この期間中,25℃よりも28℃の方が高い感染率を示した。28℃,4日間以上の共存培養では感染率の減少が認められた(Fig.1)。胚軸を高い感染率を示した条件下で感染・共存培養した後,カナマイシンで選抜を重ね,形質転換効率(GUS活性を示す幼植物数)を比較した。25℃の共存培養では,.感染率の増加に従い,カナマイシン耐性のカルスとシュート数が増加した。感染時間30分間,共存培養3日間で最も高い形質転換効率(5%)が得られた。一方,28℃の共存培養では,感染率の増加に伴い褐変枯死する胚軸数が急増し,カナマイシン耐性のカルスとシュート数は減少した。25℃よりも高い感染率を示すにも拘わらず,その形質転換効率は25℃よりも劣っていた(Table 2)。カナマイシンの代わりにハイクロマイシンを形質転換体の選抜に用いたが,形質転換効率はカナマイシン選抜の方が高かった(Tab1e 3)。GUS遺伝子をプローブとしたサザンブロット解析により,形質転換体おける導入遺伝子の存在を確認した(Fig.3)。形質転換体をP1温室で育成したところ,正常に開花結実し,自殖種子を得ることができた。自殖後代におけるカナマイシン耐性形質とGUS遺伝子の発現を調査した結果,導入遺伝子の発現が確認された(Table 4)。高い感染率を示し,かつ再分化に影響の少ない感染・共存培養条件を与えることにより,B.rapa ssp.chinensisの形質転換体の作出が可能になった。
- 日本育種学会の論文
- 1997-06-01
著者
-
畠山 勝徳
採種実用技術研
-
日向 康吉
採種実用技術研
-
高崎 剛志
神戸大農
-
日向 康吉
東北大・農
-
日向 康吉
東北大学農学部
-
渡辺 正夫
東北大学大学院生命科学研究科
-
小島 邦彦
株式会社採種実用技術研究所
-
高崎 剛志
株式会社採種実用技術研究所
-
畠山 勝徳
株式会社採種実用技術研究所
-
渡辺 正夫
東北大学農学部
-
鳥山 欽哉
東北大学農学部
-
鳥山 欽哉
東北大学大学院・農学研究科
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