琵琶湖におけるエリとヤナ:商業化における内水面漁業の社会・生態的変化
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
"Eri" and "yana" are Japanese terms for popular and traditional stationary fish traps used along the coast of Lake Biwa. "Eri" are laid inshore so as to face the lake or lagoons, or placed in the estuaries of rivers flowing into the lake. Today both are used almost exclusively for young "ayu" (sweetfish) or "ayu" fry, however, before the early 1970s, these traps were important means to catch various kinds of fish in both the lake and its lagoons. While "eri" were privatized long ago, "yana" can still be observed in cooperative or community-based fishing locations such as Kita-funaki in Adogawa Town, Shiga Prefecture. The aim of this paper is to discuss part-time fishermen who supplement their main job in part-time agriculture or other forms of employment, and who are in this respect quite different from the full-time fishermen of Katata in Ohtsu City. In this way, they seek to secure a stable income with less labor and energy input. Speaking analogically, then, we can recognize features of "eri" and "yana" in wet-rice farming technology which has similar social aspects. Here, the author discusses the potential nature and implication of their transformation, as well as changes in the context of local folk society. Lastly, from the viewpoints of both biological- and cultural- diversity and the ownership of resources, the author wishes to warn against the recent trend of over-specialization in the fishing of ayu fry. In these regards, the author recommends the further development of local environmental education and an improvement in the distribution system of "ayu" fry. エリとヤナは琵琶湖沿岸における伝統的定置漁具である。エリは湖岸線や内湖と呼ばれる琵琶湖に付属するラグーンに設置され,ヤナは琵琶湖に流入する河川の河口に設けられる。現在の両漁具での水揚高の大半は稚アユ(アユ苗)である。しかし1970年代前半までは,これらの漁具で捕っていたのはもっと多様な魚種(フナ,コイなど)であった。エリは早くに私有化されたが,ヤナは安曇川河口の北船木にみられるような共同体での維持管理が現在でもされている。 本論文の目的は,農業やそのほかの職種を主業とする兼業漁民の社会的な性格を,大津市堅田の専業漁民と対比させながら論じることである。彼らはより少ない労力・エネルギー投入量で,安定した収入を得ようとする指向が強い。これらの漁法は,技術的にも,社会的にも,水田稲作のアナロジーが適用できると筆者は考えている。本稿ではそのようなエリとヤナの,地域社会における民俗的コンテクストからその潜在的な性格と意義を議論した。 後半では,稚アユへの過度な特化が,生物的・文化的多様性や資源所有の面からきわめて問題が多いことを論じ,この観点から,環境教育や稚アユの流通システムの問題点にも言及する。
著者
関連論文
- 17〜19世紀江戸・東京近郊の花き園芸の発達と空間的拡散-グローバル/ロ-カルな視点からの菊の歴史地理-
- 海外からの植物移送・保存技術に関わる史料(翻刻) : 大英帝国プラントハンターの元締めJ.バンクスによる手引き書
- 東洋の植物を求めて : 植物園・プラントハンター・園芸家の文化交渉学
- 高田洋子著『メコンデルタ : フランス植民地時代の記憶』
- 日本の地理学 : 20世紀における伝統と革新
- ベトナムのフエ旧外港集落の天后宮と関聖殿の調査基礎報告
- フィリピン・コルディリェーラ山脈の棚田と遺産ツーリズムの課題 : 世界文化遺産としての文化的景観と地域社会
- 書評 泉佐野市史編さん委員会編『新修泉佐野市史 第12巻 別巻かんがい水利編』
- 書評 石井英也編著『景観形成の歴史地理学--関東縁辺の地域特性』
- 中島茂著『綿工業地域の形成 : 日本の近代化過程と中小企業生産の成立』
- 滋賀県犬上郡における条里と灌漑システム : 芹川中流域右岸を中心として
- 甲賀郡野洲川・杣川流域の条里型地割に関する若干の考察 : 条里縁辺地域の地形条件・水利との関連を中心にして
- 滋賀県犬上郡における条里と灌漑システム : 芹川中流域右岸を中心として
- 5 比較文化研究班 システムとしての文化の比較文化研究 : 大航海時代を中心としたヨーロッパとアジアの邂逅(平成17〜18年度東西学術研究所研究報告書)
- 「地域」を研究する : 地理学と地域研究に関するノート
- フンボルト・中南米の風景序説 : 探検から調査への架け橋(東西学術研究所シンポジウム:『近代との出会い-風景からのアプローチ』)
- 質疑(抄録) (歴史地理学会創立50周年記念国際会議 文化景観と環境の歴史地理学--歴史地理学の現在と未来) -- (農村景観の形成)
- 紅河デルタの歴史地理--干拓とその変容 (歴史地理学会創立50周年記念国際会議 文化景観と環境の歴史地理学--歴史地理学の現在と未来) -- (農村景観の形成)
- 東北タイ農村の40年間における小学生の意識変化 : ドンデーン村を事例として
- 園芸農業における"変身"の含意と栄養繁殖の歴史生態 : 沖永良部島のユリ球根栽培からキク輸送園芸への転換をめぐって
- 東南アジア・南アジアの地図思想と政治領域(思想の文化交流, 文化交渉史研究班, 研究員の研究概要)
- 18世紀後半英領インドにおける地図作製事業とレネル : 「帝国」と地図のポリティックス(1)
- E.S.モースが描く維新期の男と女の位相 : 博物学者のまなざしとスケッチから
- ハノイ理科大学地理学部の教育と研究事情
- 食文化要素からみた近江・伊賀・伊勢三国国境地帯の意義 : 淡水魚貝類摂取と正月の行事食を指標にして
- 琵琶湖におけるエリとヤナ:商業化における内水面漁業の社会・生態的変化
- 東アジア「地中海」における歴史生態基盤の地域性と文化交渉
- 地理写真を導入にしたフィールドワーク入門 : 大学1年次生レベルの地理学専門教育
- P.グルーのみたベトナム農村空間と「米の力」 : 『トンキンデルタの農民』再検
- 人口稠密・希少農地環境における持続可能な生存戦略 : ドイモイ下の紅河デルタ農村
- 近代日本におけるマラリアの地域生態と保健行政
- 開発における村落と地方行政体リンクの可能性 : バングラデシュ・ベトナム・中国・日本の経験から (「途上国開発と地理学」)
- 王権とその背域--東南アジア港市論と水利都市論の拡がりをめぐって (シンポジウム「都市・村落論再考」特集号)
- 奈良盆地農村のクライマックスと都市化をめぐる諸検討 : 『村と人間』のフィールド・旧平野村の50年
- 景観生態学の新たな展開と環境思想的背景に関するノート
- ゾン(Dzong)考 : ブータンにおける城塞の立地・形態・機能
- バングラデシュ村落社会と村落研究 : 農村開発を指向した研究史的展望(バングラデシュ農村開発研究)
- 地理学野外地域調査における教育試論
- 英領期ベンガル低地の開発と農業 : 史料による歴史地理的素描(バングラデシュの農業と農村)
- 近江盆地における伝統的農業水利体系と村落結合(「農業ノ水利及土地調査書」の分析-2-) (盆地の歴史地理)
- インタビューを素材とした地理思想史演習の試み : 内田秀雄氏の地理学観の探究
- 湖北蚕糸業の盛衰と邦楽器糸製造業についての地域社会史論
- 「疏導要書」にみる佐賀藩の治水と利水 (治水・利水の歴史地理)
- マキノ町扇状地群の開発と土地利用 : 百瀬川・石庭・牧野扇状地の比較地誌
- 湖北蚕糸業の盛衰と邦楽器糸製造業についての地域社会史論