教員養成課程をもつ大学における音楽教育の一考察(その3)
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概要
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教員を養成することを目的としている本学では,音楽に関する教科が5科目〔理論,声楽,器楽(一部選択),教材研究(児童教育専攻必修),音楽リズム(幼稚園免許取得者必修)〕があり,これらを週6時間平均で履修する時間割が1年次より3年次までに配置されている.この時間数は,すべての音楽的内容に熟達するには決して十分だとはいえない.しかし,目的を同じくする他大学の時間数を比べると,はるかに上回っている,これは音楽性豊かな教師となってもらうための本学の配慮からであるがただ単に時間数が多いだけでは,豊かな音楽性は育たない.そこで,時間を有効に使い,より多くの音楽的知識を学び,技能にみがきをかけるためには,「どのような教科内容を,どのような方法で指導するのがよいか」を,この2年間にわたってさまざまな角度から検討し実践を試みてきた.教員養成果の学校で音楽というと,技能面である声楽や器楽(本学の場合はピアノ)が中心となりがちで,その教科内容も声楽では,コールユーブンゲンからコンコーネヘ,器楽では,バイエル,ツェルニー,ソナチネという順序を経ていく方法がとられがちであるが,こうした基礎練習過程を経る方法は,いずれも専門的に習う人を対象とするものである.教師として教壇に立ち音楽の授業をしてゆくためには,もちろんすぐれた演奏能力も必要であるが,それ以上に大切なのは幅広い指導力,応用力,そして音楽的素養を身につけることではないだろうか.そこで,われわれは第1回卒業生を教職の場に送り出したのを契機に,小学校で音楽の授業をしてゆくに当たり,「どのようなことが一番困るか」「本学在学中に学んだ内容が,自分の行なう授業の中で,どのように活用されているか」などアンケート調査をしてみた.その結果,在学時代,演奏技術のすぐれていた人でも,歌いながら弾くことのむずかしさや,指導法のむずかしさを訴え,こうした内容の強化や簡易伴奏づけ,すなわち和音分析できる力をつけることを要望してきた,これを見ても常にわれわれが感じている,弾く力と指導することの不一致が強調される.アンケートの回収率がすこぶる悪かったので,これが卒業生全員の一致した意見だとはいえないが,職場で困ると思われること,学生時代に身につけておくべき必要事項をまとめてみると,1 弾き歌い 2 簡易伴奏法(理論だけでなく,実践を通しで和音分析の理解をもつ) 3 初見奏 4 簡単な曲の移調奏,移調唱 5 合唱指導 6 簡易楽器における合奏指導 7 リズム,聴音など感覚力の養成があげられる.こうした内容履修は,一応器楽が中心となると思われるが,他教科との密接な相互関係も大切であろう.今までわれわれが望んでいた高度なテクニック学習は,実際の場に臨んであまり役に立たないようである,そこで指導力,応用力を身につけることを重視したカリキュラムとして,次のような案を立ててみた,1年次 基礎技術(認定試験法を作り,その段階に到達した者は,基礎練習を免除し,できない者に時間を回しその向上を計る)2年次 基礎技術(1年次につづく)応用技術(いろいろな課題練習を行なうことにより,技術の向上を計る)3年次 応用技術(弾き歌い,初見,伴奏づけなど,直接指導に関係のあることを中心とする)自由曲(自分の演奏技量を試す機会を与えるため)このカリキュラムに基づいた指導を,来年度入学の新1年生から実施してみたい,また,23年生においても可能な限り移行措置をとって教育効果をあげたいと思っている,そして,この方法において教育を受けた学生が,教職についたとき再度調査を試み,結果の検討を重ねたい.なお,今回はアンケートを行なう時期に問題があったことを反省している,回収率をみると,特別編入1回生(48年度修了者)で職場経験が1年以上できた人たちが一番多く答えを返してくれている,ということは仕事に慣れ,問題意識をはっきりつかむことができ,それを表面化するゆとりが持てるようになっているのではないだろうか.今後こうした試みをするときには,対象者を選ぶことが大切だと考える.
- 名古屋女子大学の論文
- 1976-03-15
著者
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