家族における互酬性の規範と死者供養 : タイ東北部農村家族研究の端緒として
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概要
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タイに祖先崇拝はないといわれる。末娘が婿を取り老親を扶養する双系社会のタイでは、フォーテス等により提示された祖先崇拝理論の家族モデル、すなわち直系家族における家長―跡取りの権威主義的互恵関係は存在しない。また、家族や親族成員相互の間柄の関係が累積されて、家族圏・親族圏等の社会圏が発生すると考えられる社会では、社会集団としての家族(家)・親族(同族や単系出自集団)そのものを崇拝することはない。しかし、亡くなった肉親の追慕・供養は、上座部仏教の集合的儀礼においてなされている。本稿の目的は、東北タイの農業村落を事例に、死者供養に込められた社会的意味を探ることにあり、以下の四点を得た。<BR>(一)先祖祭祀の儀礼は、一般に隣接世代間の互酬的脈絡で考察される。<BR>(二)タイ家族・親族関係において、実際の共同行為を伴う互酬性の規範が確認される。<BR>(三)タイ村落社会の宗教的世界には、親世代が子世代のモラールを強化するクワン儀礼と、子世代が親世代に功徳を転送する仏教儀礼の互酬的関係が認められる。<BR>(四) 死者供養儀礼の功徳の社会圏は、家族―親族―地縁(村落共同体)―人縁(生活拡充集団)と同心円的に拡大し、儀礼が関係性の統合を図っていると解釈される。
著者
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- 金子曉嗣監修, 松島公望・河野由美・杉山幸子・西脇良編, 『宗教心理学概論』, ナカニシヤ出版, 2011年11月刊, A5判, 248頁, 3,570円