<論文>説得的メッセージの情報処理に関する諸研究の展望 : 説得の二過程モデルからの検討
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概要
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説得(persuasion)は言語を手段とした説得者による被説得者に対する態度変容(attitude change)の試みである。そのため,説得研究は,態度変容に影響を与える変数(variable)や過程(process)に関心を抱き,その説得効果を検討することが,その主たる領域であると考えられてきた(Chaiken,Wood & Eagly,1996)。そもそも,説得研究は態度研究の一領域として派生してきたものである。態度研究は,田中(1981)によると,(1)態度の形成と規定因,(2)態度構造の分析,(3)態度変容,(4)態度測定法,(5)特定の態度についての測定研究,以上の5領域に分類されている。そして,説得研究は態度変容研究の一領域であり,かつ主要な研究領域であることが指摘されている(Chaiken,Wood & Eagly,1996;深田,1988;McGuire,1969)。説得研究は,説得変数(persuasion variables)の効果に着目した研究と説得の過程に着目した研究に大別することが可能である(原岡,1984)。前者の説得効果を規定する変数は,Figure1に示したように,説得者(source)・被説得者(recipient)・メッセージ内容(message)・文脈(context)の4カテゴリーに分類されている(Hovland,Janis & Kelley,1953;McGuire,1969;Petty & Wegener,1998)。初期の説得研究においては,これらの説得変数の態度変容に対する直接の効果が主として検討され(Hovland et al.,1953),例えば,説得者の変数である信感性(credibility)の増加と説得効果の増加の関連を検討する研究が行われた(Hovland & Weiss,1951)。しかしながら,説得者の信感性のような明確な変数であっても,信感性の増加と共に説得効果も高まるという結果が得られる場合(Hovland & Weiss,1951)と,信感性の増加は説得効果を増加させないという結果(Sternthal, Dholakia & Leavitt,1978)の両方が得られた。これらの矛盾した結果に対する一つの解決は,各々の結果は異なった心理的過程によって得られていると考えることである(Petty & Cacioppo,1986)。そのため,説得の過程を考慮した研究が,説得研究において重要性を増してきたのである。このように,説得の過程を考慮することなしに説得変数の効果は説明不可能である。本論文では,説得の過程を説明するために社会的認知アプローチを採用している説得の二過程モデル(dual process model of persuasion)を取り上げる。現在,二過程モデルには,2つのモデルが存在する。1つはChaiken(1980),Chaiken, Liberman & Eagly(1989)のヒューリスティック-システマティック・モデル(Heuristic-systematic Model)であり,もう1つはPetty & Cacioppo(1981,1986)の精緻化可能性モデル(Elaboration Likelihood Model)である。これらのモデルを概観し,問題点を検討することが,本論文の目的である。
- 2000-09-20
著者
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岡本 真一郎
愛知学院大学心身科学部心理学科
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伊藤 君男
愛知学院大学大学院心身科学研究科心理学専攻
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伊藤 君男
愛知学院大学大学院文学研究科心理学専攻
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岡本 真一郎
愛知学院大学人間文化研究所文学部社会心理学
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岡本 真一郎
愛知学院大学
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伊藤 君男
愛知学院大学
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