茶樹の炭疽病類に関する研究 (III) : 炭疽病菌類分生胞子の形成及び発芽について
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概要
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1957年10月に静岡県金谷町に於て採集した罹病茶葉から分離した茶炭疽病菌GloeosporiumTheae-sinensis MIYAKE及びさきに外観健全な茶葉から得た茶赤葉枯病菌類Glomerella cingulata (STONEM.) S. & v. S., Glomerella sp.並びにGuignardia Camelliae (COOKE) BUTLERの4種からなる茶炭疽病菌類の分生胞子の形成及び発芽について2,3の実験を行つた。茶炭疽病菌分生胞子の形成及び発芽 : 6種の天然煎汁寒天培地及び煮茶葉培地の中煮茶葉培地は胞子形成速度が最も早く且多量に形成され胞子を用いる実験に対しこの培地が有利である。茶葉煎汁を用いた場合の分生胞子の発芽は, 水100ml.に生茶葉4gを1時間湯煎した煎汁中に於て, 24℃及び28℃, 24時間で最高平均発芽率約95%を示し, 煎汁中の茶葉成分が濃厚又は稀薄に過ぎるものではその発芽率が低下する。又乾杏煎汁中の発芽は最高平均発芽率約55%であつた。本菌の胞子は発芽する前に膨大化する。発芽の適温は24°∿28℃であつて, 20°又は32℃に於ても50%以上の発芽を示すことがある。煮茶葉培地に形成させた本菌胞子の蒸溜水中での発芽は永田(1954)の示した実験結果に比較して極めて不良であつたので, 馬鈴薯及び燕麦粉煎汁寒天培地から得た胞子の蒸溜水中の発芽を検討したが, 何れも発芽不良を示した。蒸溜水中の発芽が極めてわるく, 永田の結果と異る原因は水質によるか或は菌の系統その他の原因によるものか今日のところ不明である。併し種々の条件に対する胞子の生活力等を調査する場合には, ここに報告した茶葉煎汁を用いるのが便利で而かも適当な方法と考えられる。熱を加えないで茶の全葉又は切断葉を蒸溜水中に浸漬して得た溶液は, この胞子の発芽をある程度促進したが, 茶葉煎汁と比較すると劣つている。又茶葉から抽出されたglutamic acid又はteaninを10ppm。及び100ppm。の濃度に含む水溶液中での発芽は蒸溜水中の発芽と差がなかつた。これらの結果から乾杏煎汁及茶葉煎汁中に共通して含まれているものでglutamic acid及びteanin以外の成分が発芽に関係があるように推定される。4°∿-2℃に於て煮茶葉上の胞子を保存するとき, 5日間でその発芽力を半減し, 20日目には標準区の85%に対し, 僅々1.3%の発芽率にまで低下し越冬する分生胞子は低温の影響を蒙ることが推定される。茶赤葉枯病菌類の分生胞子の形成及び発芽 : Glomerella cingulata (G. C.)及びGuignardia Camelliae (G. U.)は光線の照射の有無にかかわらず20°∿30℃で胞子を形成したが, Glomerella sp. (G. 2)は室温に於て室内日光の照射をうける条件下で盛夏期に於てのみ胞子を形成する。そしてG. C.及びG. U.は室内日光の照射をうけない方が照射をうけるよりも胞子形成が良好であり, 又玉蜀黍煎汁寒天培地は馬鈴薯煎汁寒天培地よりも胞子形成に適していた。分生胞子の形成能力はG. C., G. 2及びG. U.の順序であつたが, G. U.の胞子形成については培地から胞子を集める方法について検討されなければならない。赤葉枯病菌類分生胞子の茶葉煎汁及び蒸溜水中での発芽はG. C.が最も良好であつて, 24℃20時間以内で95%以上の発芽率を示したのに反し, G. 2及びG. U.は発芽不良で20%以下の発芽率を示した。この実験結果はそれぞれの菌の病原性の程度と関連があるかもしれない。発芽試験に用いる胞子はその胞子源である培養の培養期間によつて発芽力に著しい差異を示した。例えばG. C.に於て培養期間60日のものが最も発芽が良好で, 30日及び90日培養のものは発芽率が極めて不良であつた。胞子を供給する培地の種類によつてその胞子の発芽力に差異を生じ, 馬鈴薯培地の胞子は玉蜀黍培地の胞子よりも発芽力が旺盛な結果を示した。このようなことがあるから人工培養によつて得た分生胞子を用いて行う発芽試験に於ては, 種々の観点から充分に検討されなければならない。G. 2の胞子は発芽に際して多数の隔膜を生じ, G. C.及びG. U.とは特に異つた形態を示した。
- 京都府立大学の論文
- 1958-08-01
著者
-
河野 又四
京府大農
-
高屋 茂雄
西京大農
-
安部 卓爾
近畿大農
-
安部 卓爾
西京大学農学部植物病学研究室
-
河野 又四
西京大学農学部植物病学研究室
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高屋 茂雄
西京大学農学部植物病学研究室
-
安部 卓爾
西京大学農学部
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