明日があるつもりへ鮭を食べのこす : 川柳作家・中山秋夫小論
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概要
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近現代の川柳は文学としての研究・批評の対象とはなりがたいという認識が、残念なことに現状においては一般的である。が、近現代の川柳の中にそうした対象たりうる作品・作家が見当たらないのかといえば、けっしてそうではない。本稿は、そうした作家のひとりである中山秋夫を取り上げ、その存在を明らかにするとともに、川柳という表現行為の持つ意味と意義について考察しようとするものである。対象とする作家・中山秋夫が現状では無名であり、先行研究もない状態であることから、記述の縦軸にはその境涯を据えた。また、中山がハンセン病患者であったということから、横軸には、わが国におけるハンセン病者を取り巻く通時的状況を置いている。これは、中山の作品や生とは不可分なものである。 川柳の抄出は中山がただ二冊残した川柳集『父子独楽』『一代樹の四季』に拠った。一九二〇から二〇〇七年という中山の生きた時代は、日本という国が激変を内に含んだ時代でもある。家族との別離、瀬戸内の邑久光明園への強制隔離・収容、断種、結婚、療養所内での労働、病状の昂進、失明、ハンセン病違憲国賠訴訟原告団への参加から死にいたるまでの、揺れに揺れた生涯の中で、中山は川柳と出会い、川柳を掴み取り、川柳を携えていった。病により、突然、差別される側に立たされ、死が常態であるという壮絶な状態に置かれ続けた中山が、歩けもせず、見えもせず、鉛筆を手に取ることもできずといった状況の中で、荒れ、笑い、傷つき、怒り、和み、吠えながら刻み続けた川柳の言葉。それらが内包するものについて考えることは、文学の存在理由にも関わる根源的な問いを、考える者ひとりひとりが改めて突きつけられることでもある。人ひとりの人生に関われないで何の文学ぞ、という視点から、中山が積み重ねた自己実現の様相と川柳がそれに対して果たしえた役割を考えるとともに、中山の川柳が、ともすれば鈍感なマジョリティでいることに気づかないでいる私たちに、提起する問題についても考察する。
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