奥尻島のエゾタヌキ
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概要
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北海道の西南方, 奥尻島に生息する野生ほ乳類としては, これまで, ネズミ科のエゾアカネズミApodemus speciosus ainu (THOMAS, 1906)しか記録がなかった。このたび, イヌ科のタヌキNyctereutes procyonoides GRAY, 184 1834が採集された。この島から初めての記録である。筆者は奥尻島のタヌキが北海道, 本州, 九州の個体群のどれに類似しているか, 外部, 頭骨, 肩甲骨, 仙椎, 陰茎骨などの形態を用いて, 分類学的に比較検討した。奥尻島個体群は, その冬毛の背毛長が平均87.8mm, 宮崎の個体群のそれは54.3mmで, 両者の間に顕著な差異が認められる。それだけでなく, 頭骨では上顎第1臼歯間の距離(歯冠部の内端間の最短距離)が本州, 宮崎産のものより大きい。この形質における奥尻個体群と北海道, 本州, 九州の8個体群間の差異係数について類似関係を求めた結果, それらが2群を形成することが判明した。I群には奥尻島および北海道個体群が含まれ, II群には本州と九州の7個体群が含まれる。I群とII群間の差異係数は1.331である。 また, 奥尻島・北海道個体群は本州・九州の個体群より仙骨が顕著に長く, 頑丈である。これらの形質は年齢や雌雄による変異が少いと考えられる。陰茎骨には年齢よる顕著な差が認められるが, 同年齢とおもわれる奥尻島と宮崎のものの陰茎骨では, 奥尻島のもので発達が悪いことが認められた。また, 仙椎の大きさは年齢や性による変異が少ないようにおもわれたので, 奥尻島のものと本州や宮崎のものと比較したところ, 前者が顕著に大きい傾向がみられた。これらの肩甲骨は年齢による変異が顕著であるが, たがいによく似ている。 以上の結果, 奥尻島の個体群は, 北海道のエゾタヌキNyctereutes procyonoides albus BEARD, 1904と同じ分類群に属すると認めるのが妥当と考えられる。エゾタヌキはニューヨークの動物園で飼育されていた白色型の生きた個体に基づいて命名されたもので, 基準標本の指定がなく, その所在も明確ではない。
- 国立科学博物館の論文
- 1988-12-01
著者
-
吉行 瑞子
東京農業大学農学部畜産学科野生動物学研究室
-
吉行 瑞子
国立科学博物館動物研究部
-
Yoshiyuki M
Tokyo Univ. Agriculture Kanagawa Jpn
-
吉行 瑞子
国立科学博物館
-
Yoshiyuki Mizuko
Department Zootechnical Science Tokyo University Of Agriculture
-
Yoshiyuki Mizuko
Mammal Section Department Of Zoology National Science Museum
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