北海道奥尻島のヘリトリゴケ属(広義)の地衣類
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概要
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奥尻島は北海道江差の北西約55 kmの日本海に位置する。この島に広くみられるブナ林は, その分布北限近くに発達している点で, 自然史科学的な興味のもたれる地域である。筆者は1987年9月に奥尻島の地衣類, 特にヘリトリゴケ科地衣類の調査を行った。採集された標本は目下研究中であるが, 今回, 2種類の未同定種を除く11種類のヘリトリゴケ属(広義)地衣類を報告した。これらの内, アジア新産1種を含む5種については従来我国において殆ど研究されていないため, 分類学的検討を試みた。 Trapelia ocarctata はMULLER(1979)がヘリトリゴケ属(広義)のもとに報告した鳥取県産の標本に基づいて, HERTEL(1977)によって既に報告されている。本種の日本における記録は2番目となるが実際には稀な種ではなく各地でみられる。筆者の採集標本を基に分布図を作成した。Lecidea helvolaは従来, ヨーロッパ・北米で知られていたが, アジアでは未記録種であった。これまでの調査により日本では摩周湖, 仙台, 浅間山にも産することが明らかになった。本種は子器内部の菌糸組織の類似性からLecidea vernalis群の一員と思われる。 Lecidea leucosralisは鳥取県の大山(タイプロカリティー)からの報告以来, 2番目の記録である。筆者は戸隠山でも採集している。今回, タイプ標本を検討した結果, 前者と同様にLecidea vernalis群に含められるべき種とみなされた。尚, 奥尻島産の標本は何れも子器を有していない。 Lecidea ocelliformisは従来, 我国においてその分布の実際が明らかでなかったが比較的広範に分布している種である。筆者の採集標本を基に分布図を作成した。子器内部の構造から, 明らかにBiatora属(広義)のものと思われるが, その所属については更に検討を要する。VAINIO(1921)により群馬県から新種として報告あれたLecidea ocellarisは本種のシノニィムである。 Lecidea russulaは従来, MULLER(1892)による戸隠山からの報告しかなかったが, 我国において稀な種ではない。子器にアントラキノン系の赤色色素を含むところからプロトブラステニア属におく意見の研究者もいる。しかし, 子器内部の構造はこの属のものといいがたい。
- 1988-12-01
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