慢性胃炎・胃癌とH.pylori
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概要
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H.pyloriは,人類大移動とともに5万8千年前にアフリカを旅立ち,変遷しながら世界に伝播した.残念ながら日本でみられる東アジア株は発癌リスクが高く,これがわが国で胃癌が多い主因となっている.わが国では2000年に胃十二指腸潰瘍に対する除菌治療が保険適応となったが,その後,胃十二指腸潰瘍は明らかに減少している.また,除菌治療により,年間約0.5%発生する胃癌は1/3に減少させることができるが,萎縮が軽度な例では予防効果が特に高いとされ,より若年での除菌が望まれる.しかし,除菌治療後も胃癌発癌リスクはゼロにはならず,年余にわたり残存する.除菌後10年以上経過後の胃癌診断例では,分化型,陥凹型が多いが,Ⅱb型などの診断しにくい病変がみられており注意する必要がある.これらのことから,除菌治療後も1~2年ごとの内視鏡検査を継続する必要がある.これまで器質疾患がないにもかかわらず,胃痛・胃もたれを訴える例は,慢性胃炎と診断され治療されていた.2013年2月よりこうした「症候学的慢性胃炎」は機能性ディスペプシア(FD)と診断され保険診療が可能となった.FDは多因子であり,その治療には特効薬はなく,消化管運動調節薬,酸分泌抑制薬など様々の治療が行われている.H.pyloriとFDとの関連は大きくないものの,除菌治療による症状改善効果以上に胃癌予防効果があることを勘案すると,まず除菌治療を行うことが推奨される.H.pylori未感染胃癌は胃癌の1%以下とまれである.日本人全員がH.pylori未感染になれば胃癌はほぼ撲滅され,胃癌検診も不要になるのである.H.pyloriは乳幼児期に感染してしまうことから,乳幼児に対する感染対策が鍵になる.すなわち周囲の陽性者,特に濃厚な接触をする親が感染源になるので,感染源撲滅のためには親になる年齢以前にH.pyloriをサーベイランスして陽性例には除菌することが理想である.そこで,漏れないスクリーニングを目指し,義務教育年限である中学生全員にH.pyloriの診断を行い,陽性者に対して除菌治療を行うという試みもいくつかの自治体でスタートしている.
著者
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永原 章仁
順天堂大学 医学部精神医学教室
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浅岡 大介
順天堂大学医学部消化器内科学
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渡辺 純夫
順天堂大学 医学部腎臓内科学講座
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北條 麻理子
順天堂大学医学部消化器内科学講座
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松本 健史
順天堂大学医学部消化器内科学講座
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島田 裕慈
順天堂大学医学部消化器内科学講座
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佐々木 仁
順天堂大学医学部消化器内科学講座
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上山 浩也
順天堂大学医学部消化器内科学講座
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