コバルト塩注射に伴う実験動物の Hypertriglyceridemia と血清LDH-アイソザイムの変化

概要

論文の詳細を見る
1963∼66年に欧米諸国の数社のビール工場で, 泡の安定剤として, コバルトを加えたところ, 大量のビール常飲者に致命率の高い心臓疾患が発生して大きな問題となった。塩化コバルトを家兎に注射していると, 心臓疾患とともに脂血を起こして来ることは既に報告されている。しかし, 如何なる機転で脂血が起こってくるかは不明である。われわれはコバルト注射に伴う脂血, 就中 Hypertriglyceridemia の成因をさぐるため, 脂質代謝, 血清LDHの面から追究した。体重3kg以上のオスの家兎に7日間に亘って10%のCoCl2・6H2Oを25mg/kg体重の割合で毎日筋肉内に注射し8日目に殺した。オスのラットには4mgCo++/kg体重の割合でCuSO4・7H2Oを8日間に亘って腹腔内に注射した。塩化コバルト注射家兎の血漿 Triglyceride は対照に比べ約17倍も増加した。しかし, 血漿FFA, 腎周囲の脂肪組織のFFAおよび Hormone sensitive lipase の活性には有意差はみられなかった。また肝, 腎のTriglyceride 量も対照に比べて差がなかった。このことは, 塩化コバルト注射8日後の時点での Hypertriglyceridemia の成因を, コバルトにより脂肪組織の Hormone sensitive lipase の活性が高まり, 脂肪組織のFFAが増量して流血中にFFAが動員され, 肝で triglyceride の合成が亢進し, 流血中の triglyceride の増加を来たすという経路に求めることは出来ないことを示唆している。また流血中の Post-heparin lipoprotein lipase の活性は例数が少ないが有意に低下していなかった。したがって Lipoprotein lipase の活性阻害に Hypertriglyceridemia の成因を求めることもむずかしい。塩化コバルト注射家兎の血清LDHの活性は対照に比べて約3倍上昇し, LDHの Isozyme はLDH-1の相対的低下とLDH-5の上昇が顕著である。また塩化コバルト注射家兎の血中乳酸は有意に増加したが血漿ピルビン酸には変化がみられなかった。LDH-5の上昇と血中乳酸の増加はコバルトによる anaerobic 代謝が亢進していることを物語るものといえよう。これに反して硫酸コバルト注射のラットでは血漿ピルビン酸が増加した。血中乳酸には増加の傾向がみられたが, 対照に比べて有意差はなかった。
日本衛生学会の論文

コバルト塩注射に伴う実験動物の Hypertriglyceridemia と血清LDH-アイソザイムの変化

スポンサーリンク

概要

著者

関連論文

スポンサーリンク