子牛における混合唾液分泌の発達
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概要
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反芻動物の唾液は,第一胃よりの発酵産物の吸収および下部消化管への内容物の流出などとあいまって,微生物発酵のために好適の第一胃内恒常性維持に重要な因子の一つである.新生子牛では第一胃も形態的に末発達で,栄養摂取過程は第四胃以下の消化機能に依存するところが大きい.本実験では,飼料摂取にともない,単胃型ともいうべき栄養摂取様式から反芻動物よ特異の様式への移行期における混合唾液分泌能の発達およびそれにともなう主要無機イオン組成の変動について検索した.ホルスタイン種雄子牛6頭を3頭ずつ2群に区分し,一群(MHG区)はミルクを制限給与したほか乾草および濃厚飼料を自由摂取させ,他群(M区)はミルクのみで飼育した.これらの動物に,梅津•佐々木の食道ロート法によって混合唾液採取を行なうべく,約3日令にlarge rumen fistula作製の第一次手術,約9日令に第二次手術を実施し,2週令より13週令まで,各週令における混合唾液分泌速度および唾液中のNa+, K+, HCO3-,Cl-, HPO4--各濃度ならびに飼料摂取量,第一胃内低級脂肪酸濃度を測定した。その結果,以下の知見が得られた.1. MHG子牛において混合唾液分泌量が著増し,特に乾物摂取量の多いほど唾液分泌能の発達にすぐれている.M子牛では唾液分泌増加がほとんどみられなかった.2. Cation濃度は各週令平均値153.1±6.45m-eq/l(Na+142.9±8.39, K+10.2±3.24)でほぼ変化がなく,子牛唾液は成牛に等しいtonicityをもって分泌される.M区でも同様であった.3. MHG子牛のanion総濃度は150.7±4.98m-eq/lでほぼ一定であった.しかるにその組成をみるに,HCO3-は71.9m-eq/l(2週),115.5m-eq/l(6週),120.2m-eq/l(13週)と増加し,いっぽう,C1-は68.8m-eq/l(2週),24.8m-eq/l(6週),24.9m-eq/l(13週)に減少した.反芻動物の唾液はHCO3-の含量が多く,C1-濃度の低いことによって特徴づけられるが,新生子牛ではCl-はanion組成のほぼ半量を占めて,HCO3-含量が成牛に比して低く,生育にともないCl-がHCO3-により置換されてbuffer actionの強い唾液になることが判った.HPO4--は約10m-eq/lでanion組成中最も低くかつ一定値を保っていた。4. 上記の変化はM子牛についても観察されるので,これが飼料摂取に起因する現象ではなく,唾液腺における末知の塩分泌機構の変化によるものと推慮される.5. ただし,Cl--HCO3-replacementは,飼料摂取によって腺分泌を刺激することにより促進され,通常飼育の場合,子牛唾液が,無機イオン組成からみて質的に成牛レベルに達するのはおよそ5〜6週令である。
- 社団法人 日本畜産学会の論文
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