慢性腎不全患者の高リン血症に対する新規リン結合性ポリマー(塩酸セベラマー)の薬理作用ならびに臨床試験成績
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概要
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摂取したリンの約7割は腸管で吸収され,過剰のリンは尿中に排泄される.一方,腎機能が低下すると尿中リン排泄が損なわれ,血中リン濃度は上昇する.透析患者においても現行の透析療法のみではリンの除去は不十分であり,高リン血症を頻発する.高リン血症は心血管系や軟部組織の異所性石灰化ならびに二次性副甲状腺機能亢進症を招き,様々な合併症を併発することで,患者のQOLおよび生命予後を低下させる.塩酸セベラマー(セベラマー)はポリカチオン性ポリマーであり,食物から遊離したリン酸イオンと消化管内で結合し,分解·吸収されることなくそのまま糞便中に排泄されることで,リンの体内への吸収を抑制する新しいタイプの高リン血症治療薬である.慢性腎不全モデル動物を用いた薬効薬理試験において,セベラマーの糞中リン排泄増加に伴う血清リン低下作用,副甲状腺ホルモン低下作用,副甲状腺過形成抑制作用,血管石灰化抑制作用,腎保護作用ならびに高代謝回転型骨障害改善作用が明らかとされている.また,副次的薬効として,本剤は消化管内で胆汁酸を吸着し糞中への胆汁酸排泄を増加させることで,血清コレステロールを低下させる.臨床試験においては,透析患者の血清リンおよびカルシウム·リン積低下作用に加えて,低比重リポタンパクコレステロールの低下が認められている.本剤は構造中にカルシウムを含まないため,既存のリン吸着剤であるカルシウム製剤の副作用である高カルシウム血症の発症は皆無である.従って,副甲状腺機能低下症の割合はカルシウム製剤からの切り換えで減少し,ビタミンD製剤の増量が可能となるために二次性副甲状腺機能亢進症の割合も減少させ得る.さらには,セベラマーを服用した透析患者では,カルシウム製剤と比較して,心血管系障害の主因となる冠動脈および大動脈石灰化の進行が抑制されるという結果や,初回入院リスクが半減することで医療費の低減に繋がるとする結果も得られている.以上のように,セベラマーは,カルシウムを負荷しないというリン吸着剤としての優れた特性に加え,血管石灰化に促進的に働く低比重リポタンパクコレステロールに対する低下作用も併せ持っており,透析患者のQOLの向上や生命予後の改善にまで繋がることが期待されている.
- 2003-11-01
著者
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福島 直
中外製薬
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永野 伸郎
キリンビール(株)医薬探索研究所
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福島 直
中外製薬株式会社創薬第二研究所
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永野 伸郎
キリンファーマ株式会社 学術部 開発研究所 薬理
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永野 伸郎
キリンビール株式会社 医薬カンパニー
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永野 伸郎
キリンビール 医薬開研
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永野 伸郎
中外製薬
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永野 伸郎
キリンビール研究開発部食品安全センター
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永野 伸郎
キリンビール 医薬カンパニー
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福島 直
中外製薬株式会社 富士御殿場研究所 創薬研究第二部
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