レバノン共和国・ティール市郊外ラマリ地区所在地下墓TJO4保存修復研究2004・2005年度概要報告
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概要
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レバノン共和国の首都・ベイルートの南約80kmにあるティール(現スール市)は、東地中海に面した景勝の地でありまた温暖な気候に恵まれて、紀元前5000年ころにはすでに優れた古代文明があったといわれている。ここに世界文化遺産「フェニキアの中心都市として栄えた港町ティール」がある。フェニキア時代の遺構はまだ未解明であるものの、シティー・サイトとアル・バス・サイトの2か所の世界遺産地区には、ローマ時代の港湾・列柱道路・公共浴場・金属とガラスの工房・劇場・水道橋・ヒッポドロムス(戦車競技場)・ネクロポリス(墓地)などの遺構が発掘され、保存修復され、多くの研究者・観光旅行者を迎えている。ティールの世界遺産地区の東約3㎞ の丘陵にはローマ時代からビザンチン時代にかけての地下墓・竪穴墓・地上掘込墓が営まれていて、その数は数千にも達するといわれている。この一角のラマリ地区では2002年度より、泉拓良奈良大学教授(現京都大学大学院教授)を代表者とする奈良大学考古学調査隊が文部科学省科学研究費(2002~2004年)の助成を得て発掘調査を行ない、ローマ時代の地下墓と地上掘込墓およそ30基を発掘調査し、テラコッタの神像・アンホラ(ワイン壷)・ランプ・ガラス瓶・青銅コイン・鉛製分銅などを発見している。本保存修復研究が対象とするローマ時代の地下墓TJO4はラマリ地区にあり、石灰岩丘陵裾の岩盤に長さ約5mの下り階段を設けて、およそ7m四方、高さ3mの空洞を掘削し、その空間におよそ3m四方、高さ3mの墓室を切石で構築している。墓室の壁には長さおよそ2mの19の納体室(棺棚)と床に2つの納体室、合わせて21の納体施設を設けている。既に開口していて墓室内部はかなりの損傷を受けていたが、2002年、西山らは側壁には赤色の波形、緑色のオリーブの枝束、灰色の石柱と灯火台など、天井には赤・緑・灰色などで鮮やかに彩色された花形などの壁画のあることを発見し、さらに2003年(財団法人文化財保護振興財団の一部助成)の調査によって墓室内部に落下堆積していた土砂中より多数の壁画片と壁や納体室の石材を発見し、これら落下した石材を原位置に戻せば、TJO4墓室の壁画および墓室・納体室のほぼ9割を復原できる可能性のあることを明らかにした。これと並行して、地下墓の岩盤・構造石材の材質分析、壁画顔料の機器分析、壁画の汚れを除去し、壁面を強化するテストとともに温度・湿度・照度・紫外線強度・二酸化炭素濃度・大気汚染などの保存環境調査を実施し、将来のTJO4地下墓の良好な保存環境確保の研究も進めた。以上のような経過を経て、奈良大学・レバノン考古総局の両者ともに調査研究の継続を望んだことと期を一にして、2004年には学校法人奈良大学創設80周年を迎えることになり、市川良哉理事長の提案によって、本研究を奈良大学創設80周年記念事業として実施することになった。
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