東アジアの古代象嵌銘文大刀
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概要
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日本の古墳から発見される大刀には、刀身や柄頭・鍔・鞘口・鞘尻などの刀装具に文様を象嵌した象嵌文様大刀がある。その数は全国で約300例、北は山形県・宮城県から西は熊本県・宮崎県に及ぶ。また、刀身に文字を象嵌した象嵌銘文大刀は古墳出土品のほか伝世された大刀や文献に記された大刀、そして、古代・中世のものをもあわせると15例を数える。中でも最も古い象嵌大刀は、奈良県天理市所在の東大寺山古墳から出土した漢中平紀年大刀である。全長110センチメートルの鉄製大刀の棟に24文字の金象嵌の銘が記され、冒頭の「中平口年五月丙午」の紀年から、中国・漢代の中平年間、西暦184~189年に造られ、我が国にもたらされておよそ150年間伝世したのち東大寺山古墳に死者とともに埋納されたものであろう。また、伝世された象嵌銘文大刀としては、朝鮮半島の三国時代・百済からもたらされた奈良県天理市の石上神社の七支刀がある。全長86センチメートル、両側に3本ずっ枝のある剣身の表裏に61文字の金象嵌の銘が記され、冒頭の「泰和四年五月十六日丙午正陽」の紀年や「百済王」の記載から、西暦369年に製作され、日本書記の記載によると372年に我が国にもたらされたことがわかり、およそ1700年もの問、石上神社に伝世されてきた。日本で造られた最も古い象嵌銘文大刀は千葉県市原市・稲荷台1号墳の王賜銘鉄剣で、推定12文字の銀象嵌銘に年紀は記されていないものの5世紀半ばの大刀と推測されている。つづいて埼玉県行田市・稲荷山古墳発見の全長73.5センチメートルの辛亥銘鉄剣には表裏に115文字の金象嵌銘文が記され、冒頭の「辛亥年」は西暦471年にあたる。象嵌銘文大刀は極めて少ないものの6世紀以降も出土品、伝世品、文献記載の大刀等が見られる。日本の象嵌銘文大刀は、古墳時代にあっては大和政権の一翼を担う豪族の古墳、地方豪族の古墳、要衝管理などの特殊な職掌にあった人物の古墳から発見されたり、その後は永く神社や朝廷に伝わったり、古文献に記録されるなど、政治・社会・思想などを考える上で注目すべき極めて特異な存在である。本稿の目的は日本の象嵌銘文大刀の性格を明らかにすることにあるが、その始源である中国と韓国の象嵌銘文大刀もあわせ、銘文内容・象嵌線の組成成分・象嵌技法などの視点から検討を加えるものである。
- 奈良大学文学部文化財学科の論文
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