文化財周辺樹木の大気汚染防除効果: 奈良公園帯における二酸化窒素濃度測定調査から
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概要
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1987年に始めた「北部奈良盆地における大気汚染が文化財に与える影響」の調査・研究は6年目を迎えた。そのデータの示すところ、奈良の大気汚染濃度(二酸化窒素・二酸化硫黄・塩素)は東京や大阪ほどに高くないにもかかわらず、資料として設置した銀・銅・鉄・鉛等の金属板、顔料塗布板の腐食・裡色は著しく、予想を越えるものである。実際に青銅製灯籠・梵鐘、石製塔婆などの文化財の腐食・劣化・槌色が目視できるほどに進み、また、杉・松・棒等の植物の衰退"枯死も目につくようになってきた。本稿は、前記調査・研究の一部として、奈良公園一帯の1.6㎞四方・81カ所で二酸化窒素濃度を簡易測定して、二酸化窒素濃度の分布と地形・市街地建築構造物・植生(疎林・原生林)との関連、および文化財保存環境との関連を考察した。その結果、自動車が発生源である二酸化窒素は、道路沿い・駐車場に高く裸地・芝地を覆いつつ公園内を拡散していくこと、植栽された疎林は流れきた二酸化窒素を87%に減少させ、原生密生林は流れきた二酸化窒素を58%にまで減少させることが判った。この減少率は、東大寺経庫(奈良時代の校倉造りの倉)の内外(65%)、春日大社宝物館の内外(58%)の減少率に匹敵する。文化財、とりわけ金属製・石製・彩色木製の建造物等の文化財は・大気汚染を避けて博物館の屋内に収蔵する事は困難であるし、また、原位置に置かれているからこそ文化財としての価値が認められている。こうした文化財を原位置に置いたまま、屋内に収蔵するのと同等の大気汚染防除効果を図る方法として、文化財の周囲を樹木帯で囲むなど、樹木を利用した文化財保存環境造りを薦めたい。
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