クロアチアにおける歴史教育と近代史
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概要
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旧ユーゴスラヴィア連邦から分離・独立したクロアチアの学校向け歴史教科書における近代史に関する記述の変化を、一九八〇年代末までの連邦時代、独立直後の一九九〇年代、新たな学習指導要領が導入された二〇〇六年以降の三期に分けて詳細に辿りつつ、その特徴と問題点を明らかにした。共産主義者同盟による一党独裁体制下にあった連邦時代においてさえ、クロアチアの歴史教科書は世界史(主にヨーロッパ史)、クロアチア史、その他のユーゴスラヴィア諸民族史の三層構造となっており、「国民史」的側面を持っていたが、必ずしもクロアチア史に関する記述の比率は高くなく、諸民族の融和を意図してユーゴスラヴィア主義(思想)や「民族体」への言及などの特別な配慮が見られた。しかし、連邦解体に伴う激しい「内戦」を経験した一九九〇年代の歴史教育・教科書は「国民史」一辺倒のものに変貌し、「狭隘な民族的歴史観」を押し付けるものとなった。それが近隣諸国間の不和を助長した面もある。最近では、近隣諸国との教科書対話などを通じて、かつてほど極端な記述は見られなくなり、「クロアチア国家(国民)教育基準」に基づく新たな学習指導要領の下で教科書の記述のあり方も多様化している。それでも、文化史・社会経済史に関する記述や「少数民族」に関する記述など、さらに改善すべき点も少なくない。クロアチアを含む旧ユーゴスラヴィア諸国において現在進行中の歴史教育・教科書の改善策は、同じように歴史教科書問題を抱える日本にとっても参考にすべき点があると思われる。
著者
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