金属溶射被膜による防蟻処理(第3報) : 亜鉛溶射被膜の厚さと耐蟻性に関する野外試験(化学物質)
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概要
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金属溶射被膜による防蟻工法を開発する目的で,第1, 2報に引続き,亜鉛,銅,アルミニウムの溶射被膜の厚さと耐蟻性との関係を調べるとともに,部分的に亜鉛溶射した木材に対するシロアリの食害状況を観察するためにイエシロアリによる野外試験を行った。実験結果を要約するとつぎのとおりである。(1)マツ材片(30×30×10mm)の全面に膜厚19〜37μmに亜鉛溶射した試験片についてシロアリ食害試験を行った結果,膜厚28μm以下のものが食害をうけ,なかでも膜厚が大体20μm以下のものがとくに加害されやすい傾向が認められた。また,木材杭(30×30×350mm)の全面に厚さ22〜49μmに亜鉛溶射したものでは膜厚22μmのものが食害をうけ,膜厚35, 37, 46μmの試験杭でも角の部分に1あるいは3個の微食痕が認められたが,これは角材の角の部分は溶射被膜が比較的薄くなるためと考えられる。したがって,溶射施工にあたっては被溶射体の角の部分はとくに入念に溶射する必要があることがわかった。(2)銅を厚さ29〜58μmに溶射した試験片では,12個中3個の試験片に微食痕が認められたが,いずれも試験片の角の部分がわずかに食害された程度で耐蟻性はかなり高いと考えられる。しかし,木材に溶射した場合,亜鉛被膜に比べると薄い均一な被膜がつくりにくく,屋外曝露で微細な亀裂を生じやすく被膜がやや弱いことや比較的高価である点などから考えると,防蟻用としては亜鉛のほうが有効かつ望ましいと考察される。(3)アルミニウム溶射試験片(厚さ22〜39μm)について耐蟻性試験を行った結果,すべての試験片がシロアリにひどく食害され,本実験に供した膜厚では耐蟻性がないことが明らかになった。(4)部分的に亜鉛溶射(厚さ30〜65μm)した木材杭に対するシロアリの食害状況を調べた結果,亜鉛溶射部は外部からまったく食害されず,シロアリは無処理部だけから侵入,食害した。ただし,供試杭15本中,膜厚30μmで最も薄い木材杭1本に4個のごく小さい食害孔が認められたが,これは無処理部から侵入したシロアリが木材内部を潜行侵食中,あるいは試験片の発掘回収,運搬中に被膜が破損したものと考えられる。(5)今回,実験に供した亜鉛,銅,アルミニウムのうちでは,防蟻工法としての金属溶射には亜鉛が最も適しており,亜鉛溶射の場合,膜厚が大体30μm以下ではシロアリに食害される恐れがあるので,安全度を考慮して膜厚50μm以上にしたほうがよいと考えられる。(6)金属溶射にあたっては,被溶射体の凹凸部では被膜が不均一になりやすく,とくに角の部分は被膜が薄くなりやすいので,施工にあたっては,入念に施工する必要がある。
- 日本家屋害虫学会の論文
- 1990-05-30
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