グローバル経済・人口減少社会における日本の都市システムと都市内部構造の再編(<英文特集>変化する日本の都市の経済地理学)
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概要
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1990年代は「失われた10年」と言われるが,この時期は企業集団の再編,企業組織の重要な変更が行われ,都市システムの一大変革期であった.グローバル化と少子高齢化,市町村合併等の行財政改革の下で,さまざまな側面で都市間格差が顕在化している.まず第1に,地方圏はもちろん三大都市圏においても,人口増加率の比較的高い都市は,人口規模の大きい都市に限定されつつある.第2に,自動車や液晶,高度部材の大工場が立地する一部の成長都市を除いて,旧産炭都市や伝統的な工業都市,観光都市,条件不利地域の中心都市など,衰退傾向を示す都市が大幅に増えている.第3に,バブル崩壊後に低下していた東京圏の卸売業および情報サービス業の対全国比が再度上昇し,大阪圏との差を拡げてきている.とりわけ東京圏では,インターネット関連などの新しい産業の特化係数が高く,しかも大阪圏や名古屋圏に比べ,多様な産業の集積が形成されている.また,1980年代にはいずれも高い成長率を示してきた地方中枢都市の間でも,格差の拡大がみられる.人口増加率では,札幌や福岡が高く,仙台と広島が相対的に低くなる傾向が,特化係数の高い産業の数では,福岡と他の中枢都市との差が明確であった.ところで,都市内部構造の変容に関しては,大都市圏と地方都市との対照性が注目される.すなわち,大都市圏では郊外での人口増加に代わり,都心およびその周辺で人口が増加する「都心回帰現象」が顕著であるのに対し,地方都市では郊外への人口拡散や公共機能の移転,中心市街地をはじめ都心部の衰退傾向が問題となっている.とくに東京圏では,1980年代後半のバブル期以降,地価の高騰・暴落といった変動に対応して,オフィス供給・マンション供給の動向はめまぐるしい変化をみせてきた.バブル期のオフィスブームに代わり,バブル崩壊後の1990年代は地価の低下とともにマンションブームが到来,その後1999年以降はマンションブームとオフィスブームとが並存する状況を迎えた.しかも,最近のオフィスブームは,「都市再生特別措置法」,都心再開発,不動産証券投資といった新たな制度的枠組みや事業スタイルの下で,都心3区のシェアが高くなっている.地方都市でも,中心市街地の衰退をくいとめる施策が各地でくりひろげられている.なかでも青森市では,複合的な公共施設を駅前に設けたり,都心周辺部でのマンション建設を活発化させるなど,コンパクト・シティをめざす動きを盛んにしている.こうした状況下で,国土政策と産業立地政策も転換期を迎えている.中央と地方との格差を埋める政策,工業の地方分散政策に代わって,地域経済の自立と国際競争力の強化が重要になってきている.50年余続いた「国土総合開発法」に代わって,「国土形成計画」が打ち出され,各地方ブロック圏域では,「広域地方計画」の策定に向けた動きが加速している.都市の階層性に応じた都市政策が求められており,東京では創造性を醸成する環境整備を進め,都市集積の国際競争力を強化することが,地方中枢都市では支店経済への依存を改め,産学官連携を通じた研究開発機能を充実させることが,地方中心都市では産業集積の高度化を図り,都市間の都市機能の補完や連携を進めていくことが,それぞれ重要な課題となろう.
- 2007-12-30
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