関東地方産ジャコウアゲハ(鱗翅目:アゲハチョウ科)における蛹休眠の個体群間変異
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概要
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ジャコウアゲハ(原名亜種)は蛹期で冬休眠をし,地域により発生時期や回数に変異が見られるが,その理由は不明である.本研究ではそのような変異を理解するために以下の実験を行なった.幼虫の飼育にはウマノスズクサを用いた.(1)まず,鎌倉個体群と御殿場個体群において蛹休眠誘導に対する幼虫期の光周期と温度の効果を調べた.鎌倉個体群は,長日型の光周反応を示し,臨界日長は25℃では13.5時間,20℃では14.5時間であった.一方,御殿場個体群は長日型の光周反応を示したが,長日日長下でも休眠蛹を生じ,特に20℃では60%の個体が休眠に入った.(2)関東地方の他の個体群についても調べたところ,このような長日条件下にもかかわらず比較的低温条件下で高い休眠率は津久井,伊勢原,安房小湊などの個体群でみられた.それに対して,筑波,所沢,府中の個体群は,鎌倉個体群同様に20℃でも長日条件下では,ほとんど休眠蛹は生じなかった.(3)さらに,鎌倉個体群と御殿場個体群の休眠蛹において,休眠終了に対する低温(5℃)処理と日長の効果を調べた.最長120日間の低温処理を行なったが,休眠終了に対する効果はわずかしか見られなかった.一方,休眠は短日条件下よりも長日条件下においてより早く終了した.また,御殿場個体群の方が鎌倉個体群よりも休眠が深かった.(4)それゆえ,本種の蛹休眠には個体群間変異が存在することが明らかとなった.(5)長日・低温条件下で休眠する個体群は山地に生息し,寄主はオオバウマノスズクサであるのに対して,長日条件下では低温でも休眠しない個体群は低地に生息し,ウマノスズクサを寄主として利用している.それゆえ,このような地域変異の原因を,標高と寄主植物利用の観点から議論した.
- 2000-06-30
著者
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加藤 義臣
Department of Biology, International Christian University
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加藤 義臣
Department Of Biology International Christian University
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加藤 義臣
国際基督教大学生命科学デパートメント
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