日本産Anarsia属の分類学的再検討(鱗翅目,キバガ科)
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概要
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日本からはAnarsia属に含まれる種としてA.bipinnata(Meyrick)とA.isogona Meyrickの2種が知られていた.今回日本産Anarsia属の分類学的再検討を行った結果,上記2種以外に2新種A.incerta sp.n.,A.silvosa sp.n.,日本新記録種A.protensa Park,A.bimaculata Ponomarenko,A.tortuosa(Meyrick)(新結合)の計7種が日本に産することが判明した.またA.protensaをナワシログミの果実より採集・飼育した結果,Park(1995)による雌の記載は誤同定されたA.isogonaの標本に基づいたものであることが判明した.Anarsia属の単系統性は,雄下唇鬚第3節の著しい縮小,雄交尾器のgnathosの消失,雄交尾器のvalva先端の特殊な鱗片の存在,の3つの共有派生形質によって支持された.また日本産Anarsia属を暫定的に4種群に分割した.Group AとBにおいて半円形のsociusが存在し,Group B,C,Dに雄前翅裏面に毛束が存在するが,これらの形質のどちらが真の共有派生形質であるかは決定できなかった.以下各種群を特徴付ける派生形質と,そこに含まれる種の分布と特徴を記す.Group A:雄交尾器のaedeagusに腹部前方に強く曲がるcoecumが存在する.A.isogona Meyrick,1913(Figs 1,9,10,17)ヒメマエモンハイキバガ(新称)次種およびA.protensaに似るが雌雄交尾器により識別は容易である.また雄では前胸上前側板の毛束の有無によってA.protensaと区別できる.分布:日本(本州,九州),中国,台湾,インド.A.incerta sp.n.(新種)(Figs 2,11,18)コマエモンハイキバガ(新称)前種に近縁であるが,雄交尾器において前種のvalva先端2/5が著しく細くなるのに対して,本種ではならないことから識別は容易である.また雌交尾器においても第8腹板後縁中央に三角形のプレートが伸びる点や,signumの存在で区別できる.分布:日本(琉球).Group B:雄前胸上前側板に毛束が存在する.A.bipinnata(Meyrick)(Figs 3,12,19,20,21)フタクロモンキバガ前翅前縁中央および中室中央に黒班があることにより他種との識別は容易である.分布:日本(北海道,本州),韓国.A.protensa Park(日本新記録)(Figs 4,13,22)マエモンハイキバガ(新称)A.isogonaに似るが,雄前胸上前側板に毛束が存在することで区別できる.また雌雄交尾器によっても他種との区別は容易である.分布:日本(本州,九州),台湾.Group C:雄交尾器の左valvaが大きく膨らむ;雄交尾器の左valvaに長く,大きく曲がる突起が存在する;雄交尾器の右valvaに前方に曲がる突起が存在する.A.bimaculata Ponomarenko(日本新記録)(Figs 5,8,14,23)フタモンキバガ(新称)A.bipinnataに似るが,雌雄交尾器によって識別は容易である.分布:日本(北海道,本州),ロシア,韓国.A.silvosa sp.n.(新種)(Figs 6,15,24)モンハイジロキバガ(新称)前翅中央に鱗粉の隆起した黒色班があることで他種から区別できる.雄交尾器は前種に似るがaedeagusの腹面基部の竜骨状の骨片が半円形になることで識別できる.雌交尾器による前種との区別もantrumがリング状になること,signumが存在することなどで容易である.分布:日本(本州,九州).Group D:雄後翅中室に毛束が存在する.A.tortuosa(Meyrick),comb.n.(新結合,日本新記録)(Figs 7a,7b,16,25)チャイロスジキバガ(新称)琉球地域で得られた標本をイギリスの自然史博物館に保管されている完模式標本およClarke(1969)に図示された雌交尾器と比較,検討した結果,本種であることが判明した.本種はこれまで,スリランカから得られた雌1個体のみしか知られておらず,Chelaria(=Hypatima)属に所属させられていたが,今回雄下唇鬚と雄交尾器の特徴からAnarsia属に所属を初めて移した(新結合).本種は前翅が褐色であることから日本産の他種と容易に区別できる.分布:日本(琉球),スリランカ.
- 1997-06-15
著者
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上田 達也
Entomological Laboratory, College of Agriculture, Osaka Prefecture University
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上田 達也
Entomological Laboratory The Graduate School Of Agriculture And Biological Sciences Osaka Prefecture
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上田 達也
Entomological Laboratory College Of Agriculture Osaka Prefecture University:(present Office)regional Environmental Planning Inc.
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