ウラギンキヨトウMythimna(Hyphilare)hamifera(Walker)とMythimna(Hyphilare)exsanguis(Guenee)に関する分類学的再検討と1新亜種の記載
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
ウラギンキヨトウMythimna(Hyphilare)pryeriは文字どおり雄の前・後翅の裏面に銀色に輝く鱗粉を持つ.本種はLeech(1900)により日本の標本を基にして記載されたが,この他に中国,台湾にも分布する.Mythimna(Hyphilare)hamiferaはWalker(1862)によりボルネオから記載された.また,Mythimna(Hyphilare)inframicansはHampson(1893)によりスリランカ産の標本に基づき書かれた.今回,これら3種のタイプ標本およびアジア各地域からの標本を詳細に比較検討した結果,これらは同一種であることが判明した.すなわち今後はウラギンキヨトウに対してはM.(H.)hamifera(Walker)が適用される.Yoshimatsu(1994)は「日本産および台湾産Mythimna属のレビジョン」の中で,台湾にはウラギンキヨトウに近縁のM.(H.)exsanguisが分布することを示した.これら2種は前翅の斑紋の僅かな差異により区別できるが,雄交尾器形態はほとんど同じであり,たびたびこのグループの分類は混乱を生じてきた.Calora(1966)はフィリピンよりexsanguis(Guenee)とhamifera(Walker)を認めた.Holloway(1989)はCalora(1966)の言うような差はなかったとしてhamiferaをexsanguisの新シノニムとし,ボルネオからはexsanguis 1種のみを認めた.著者は最近hamiferaのタイプ標本を借用して調べたところ,hamiferaはexsanguisとは異なる種であることが判った.また,Calora(1966)の扱ったhamiferaは正しいが,彼の扱ったフィリピン産のexsanguisは他地域のものに見られるような前翅の翅頂から中室基部に向かって走る黒褐色条紋が無く,前翅は一様な淡黄褐色を呈しており,新亜種exsanguis hiraii subsp.nov.として区別できる.Holloway(1989)がexsanguisとして示したボルネオ産の標本は鱗粉が脱落しており,また雄交尾器しか図示されておらず,現時点ではexsanguisなのかhamiferaなのか同定不可能である.M.hamiferaとexsanguisの差異は以下の通りである.1.前翅のmedian nervure末端1/2がhamiferaでは顕著な白条となるが,exsanguisでは不明瞭.2.雄交尾器での区別は非常に難しいが,exsanguisのほうがvesicaが僅かに短い.3.雌交尾器ではcervix bursaeの形態で識別できる.すなわち,hamiferaではcervix bursaeがductus seminalis付近で管状となるが,exsanguisでは管状とはならない.ただしプレパラートにした場合,区別はやや困難となる.立体構造の把握が必要となってくる.
- 日本鱗翅学会の論文
- 1995-06-20
著者
-
吉松 慎一
Natural Resources Inventory Center National Institute For Agro-environmental Sciences
-
吉松 慎一
Laboratory of Insect Systematics, National Institute of Agro-Environmental Sciences
関連論文
- ヨーロッパ-地中海沿岸産の種Mythimna albipuncta ([Denis & Schiffermuller])(鱗翅目,ヤガ科,ヨトウガ亜科)の東アジアからの初めての記録
- Aletia distincta MOOREの再記載とこれに近縁な2新種の記載(鱗翅目・ヤガ科)
- Helicoverpa sugii sp.nov.クロタバコガ(新称)の小笠原諸島からの記載と簡単な生態の報告(鱗翅目,ヤガ科,タバコガ亜科)
- パプアニューギニア産の目立つ前翅斑紋を備えたキヨトウMythimna属(鱗翅目,ヤガ科,ヨトウガ亜科)の1新種
- 1新置換名を含むMythimna(Sablia)griseofasciata(Moore)とその近縁種の分類学的再検討(鱗翅目,ヤガ科,ヨトウガ亜科)
- クジュウキヨトウ(新称)Mythimna lineatipes(Moore)の日本とタイからの発見とアジア産の近縁種の分類学的整理
- 中国産Mythimna属の新種および稀な種の記載(鱗翅目,ヤガ科)
- 中国産Mythimna属(鱗翅目,ヤガ科)3新種の記載
- タイ産Mythimna属の一新種の記載(鱗翅目,ヤガ科)
- 台湾産Mythimna属に追加される2種(鱗翅目,ヤガ科)
- ウラギンキヨトウMythimna(Hyphilare)hamifera(Walker)とMythimna(Hyphilare)exsanguis(Guenee)に関する分類学的再検討と1新亜種の記載
- Aletia属(鱗翅目・ヤガ科)の1新種
- キョトウ類(Leucania-complex)の幼虫の大腮の形態的変化(鱗翅目,ヤガ科)
- Aletia radiata(BREMER)とその近縁種(2新種を含む)について
- Aletia lucbana CALORAの雄のフィリピンからの発見
- 9. キヨトウ類(ヤガ科ヨトウガ亜科)の単系統性についての考察(日本鱗翅学会第34回大会一般講演要旨)
- Leucania striata LEECH(スジシロキヨトウ)と1新種を含む近縁種の分類学的研究
- 13. 日本産Aletia属(ヤガ科,ヨトウガ亜科)の雄交尾器形態について(日本鱗翅学第30回大会一般講演要旨)
- リュウキュウアカスジキヨトウMythimna(Mythimna)simillima(Walker)およびアジア・オセアニア産近縁種の分類学的再検討と1新種の記載(鱗翅目,ヤガ科,ヨトウガ亜科)
- 日本から初めて記録されるMythimna subplacida(新称:タイワンクロシタキヨトウ)(鱗翅目,ヤガ科,ヨトウガ亜科)