介護保険下における痴呆性老人を抱える家族の介護負担と介護サービス評価について
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概要
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本稿は介護保険施行時(2000年4月)から問題とされている,痴呆性老人に対する介護判定は低いという指摘に対して,痴呆性老人の介護判定は現在でも低く抑えられているのかどうか,介護判定と認知能力(または痴呆症状),ADLの判定は,調査する人,調査時期の違いによって大きく変化するのかどうかについての追跡調査を行ったものである.また,介護保険の目的は家族の介護負担の軽減におかれているが,この目的がどの程度達成されているのかという観点から,介護者の介護負担感・介護サービス評価について検討している.さらに,痴呆性老人を抱える家族の介護負担の軽減にはどのような介護サービスが必要になるのかという観点から,介護者の介護サービスに対する評価を分析している.分析結果によると,痴呆性老人の要介護度は,当初予想したほどには必ずしも低いとはいえないこと,しかし,どのような変数が介護判定により大きな影響を及ぼしているのかという観点からは,痴呆性老人へのアプローチには,認知機能障害に関する情報をもっと取り入れる必要があるのに対して,現行の介護判定はADL群へと傾斜しており,痴呆性老人の要介護度が十分反映されているとは言いがたいことが確認された.また,介護判定は調査者や調査時期の違いによって大きく変化するのかという疑問については,調査者や調査時期の違いによって大きく変化するのはADL群の判定であり,「認知機能群」ではないことが明らかにされている.次に,どのような変数が介護者の負視感に影響を及ばすのかという疑問については,介護者の介護実感(介護不満感)と「生活の困りごと」を合わせた15項目の因子分析を実施し,「生活時間制約因子」「家族の介護負担因子」「介護支援因子」の3つの因子を析出した.さらに,これらの因子群の相関分析を通じて,痴呆性老人を抱える家族の介護負担が必ずしも軽減されているわけではない現状が確認できた.介護者の介護サービス評価については,ケアマネジャーに対する不満度の強さやデイサービス,ショートステイなどとともに,痴呆対応型施設への不満度の強いことが確認された.また,介護サービス利用に伴う「介護負担の軽減」には,「介護不満の軽減」→「介護不安の軽減」→「時間拘束の軽減」→「家事制約の解消」→「精神的負担の軽減」という関連図式が成り立つこと,従って,介護者の「介護負担の軽減」には,専門家等による介護不満や介護不安の解消など精神的な支援とともに,デイサービスやショートステイ,グループホームなど「時間拘束の軽減」につながる介護支援体制が必要になると結論できる.
- 久留米大学の論文
著者
-
大西 良
久留米大学大学院比較文化研究科
-
保坂 恵美子
久留米大学文学部
-
佐藤 亜紀
久留米大学文学部
-
大西 良
久留米大学大学院
-
佐藤 祐一
久留米大学比較文化研究所
-
佐藤 亜紀
久留米大学文学部:久留米大学大学院比較文化研究科
-
松尾 誠治郎
久留米大学文学部社会福祉学科
-
松尾 誠治郎
久留米大学
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保坂 恵美子
久留米大学
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