小笠原諸島母島列島属島の植生 : 乾性低木林の分布・組成・構造を中心に
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概要
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(1)小笠原諸島母島列島の主要5属島を対象に調査区(姪島:7ヵ所,妹島:8ヵ所,姉島:7ヵ所,平島:6ヵ所,向島:7ヵ所)を設け,100本法による植生調査を行った。これに母島本島南部丘陵地の既存の10調査区のデータをくわえて,属島部の植物相と植生の特徴について解析した。(2)属島部に記録のある高等植物は158種であり,母島本島の約2分の1,個々の属島では3分の1以下でしかない。母島本島中央部で優勢な湿性高木林や湿性型媛低木林の主要構成種や稀産随伴種を欠いていること,母島本島の二次林の優占種ムニンヒメツバキがないこと,ラン類やシダ植物が質・量ともに貧弱であること,帰化雑草類や帰化樹種の侵入が限られていることなどが特徴として挙げられる。(3)一方で,母島列島の乾性低木林にのみ現れる列島固有種ハハジマトベラは平島以外の各属島に分布し,同じくムニンクロキは小笠原群島中で向島だけにしか生育していない。また,現在野生化ヤギがいないために,父島列島ではほとんど壊滅状態のオオハマギキョウが各属島で群落を形成している。(4)属島部の自然植生を海岸植生(テリハボク・モモタマナ林,クサトベラ群落)と乾性低木林(シマシャリンバイ型低木林,シマイスノキ型低木林,タチテンノウメ型矮低木林)に区分し,シマシャリンバイ型低木林はさらに優占樹種の違いにより10の優勢林(シマシャリンバイ優勢林,アカテツ優勢林,アデク優勢林,モンテンボク優勢林,ムニンアオガンピ優勢林,ヤロード優勢林,オガサワラビロウ優勢林,テリハボク優勢林,オオバシロテツ優勢林,タコノキ優勢林)に細区分した。二次植生としてはリュウキュウマツ・モクマオウ林,アオノリュウゼツラン・サイザルアサ群落,オガサワラススキ・ハチジョウススキ群落の3型を区分した。以上の植生区分に従い,各島の植生図を作成した。(5)各島の植生の特徴は次の通り。姪島:低標高で丘陵状の地形のため全体に乾燥しており,シマシャリンバイ型低木林が広がる。岩場にはタチテンノウメ型矮低木林があり,アオノリュウゼツラン群落が目立つ。戦前の耕作地の周囲にはテリハボク防風林が残る。妹島:属島の中ではもっとも標高が高く,山頂付近には時々雲霧がかかる。シマシャリンバイ型低木林が広がり,岩場にはタチテンノウメ型綾低木林が現れる。主稜線部にはシマイスノキ型低木林も点在する。林床のシマオオタニワタリが目立つ。姉島:全体に平坦な島で,北端には海岸林がある。やや湿性な沢沿いの平坦地にはリュウキュウマツ・モクマオウ林が成立し,尾根筋の岩場にはサイザルアサ群落が目立つ。南部丘陵地にはシマシャリンバイ型低木林が分布する。平島:低平な小島で,テリハボク・モモタマナ海岸林(戦前の植林を含む)とモクマオウ林が広く分布している。シマシャリンバイ型低木林はわずかで,属島部で唯一のアカギ植栽樹がある。向島:属島部最大の島であり,上部丘陵地をハハジマトベラやムニンクロキのあるシマシャリンバイ型低木林が覆う。オガサワラビロウが目立ち,ノヤシの個体も多い。二次植生としてモクマオウ林が見られる。(6)母島本島南部丘陵地と属島部の植生は,その組成・構造からみて共通の乾性低木林(とくにシマシャリンバイ型低木林とシマイスノキ型低木林)で特徴づけられる。両地域は最終氷河期の海水面低下時(100m以上)には地続きであったと考えられ,その植生は一体のものとしてとらえることができる。(7)属島部のシマイスノキ型低木林は,過去により広い分布をもち組成も多様であったが,その後の長期的な乾燥傾向(数万年〜数十万年オーダー)のなかで衰退し,より耐乾性のあるシマシャリンバイ型低木林に置き替わりつつあることを論じた。(8)戦前の人為の影響として,農耕地の開拓や家畜の放牧,野生化家畜類による食害,軍隊の活動などが知られているが,いずれも一時的なものであった。戦後は無人島となって人為の影響から解放されたので,属島部の乾性低木林は本来の姿に近い状態をとどめている。また,ここは小笠原諸島全体の植生の成立過程を考える上でも重要な内容を含んでいるので,このまま人手を加えず自然の推移にまかせるのが望ましい。
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