小笠原諸島兄島の植生 : 乾性低木林の分布・組成・構造
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概要
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(1)小笠原諸島父島列島兄島の乾性低木林の分布・組成・構造を中心に,兄島の植生の現況調査を行なった。(2)兄島のほぼ全域にわたって74箇所の調査区を設け,100本法による植生調査を行なった。各植生型の代表的な林分では詳細な毎木調査を行ない,樹冠断面図を描いた。また,兄島の植生図を作成した。さらに,父島と兄島の岩礫疎開地各6箇所に調査区を設け,草本植生の比較を行なった。(3)乾性低木林を次の4型に区分した。尾根型:樹高2m以下の矮低木林で,土壌の薄い尾根筋に成立する。シマイスノキの優占度が高い。山腹型:斜面中腹にみられる樹高2-6mの低木林で,シマイスノキが優占するが,稀産種を多く含み種多様性が高い。谷型:土壌のあるやや湿性な谷筋に成立する樹高6-8mの中高木林で,ムニンヒメツバキ,コブガシなどの好湿性種が含まれる。ガレ地型:岩礫質の乾燥した斜面に現れる樹高3-5mの低木林で,オガサワラビロウが目立つ。(4)乾性低木林の他に小面積ながらモクタチバナ型,ムニンヒメツバキ型,リュウキュウマツ型,イネ科草本の草地が認められた。(5)乾性低木林のうち尾根型,山腹型,谷型は,兄島の海抜100-150m以上にみられる山地平坦面上に広く分布している。これに対して,ガレ地型は島の周辺部に片寄った分布を持っている。(6)兄島では父島の乾性低木林に産する稀産樹木24種(広義の絶滅危惧植物)のうち20種が確認された。これらは分布様式から広域タイプと局所タイプに区分された。局所タイプの稀産種は,兄島中央部のもっとも標高の高い部分(見返山から北二子山周辺)に分布が集中している。(7)兄島の岩礫疎開地の草本植生はシマイガクサ,シマカモノハシ,シマギョウギシバ,マツバシバなどの固有植物からなり,外来雑草の割合がきわめて低い。これに対して父島では岩礫疎開地の草本植生がほとんど外来雑草によって占められている。(8)兄島の乾性低木林は過去にほとんど人為の影響を受けておらず,きわめて高い自然度を保っている。また,小笠原で最大面積の乾性低木林が残存している点でも貴重である。(9)兄島では一切の開発を行なわず,乾性低木林に生息する動植物の最後の聖域として厳重に保存すべきである。
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