E.M. フォースター : 『インドへの道』 : 融合の模索
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概要
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E.M. フォースター(E.M. FORSTER 1879-1970)の代表作『インドへの道』(A Passage to India, 1924)は,彼が若い頃のインド滞在経験を踏まえて書かれた作品である。それはインドの自然環境(気候や風土),20世紀初頭のインド駐在英国人の生活実態,更に,彼が不思議な魅惑を覚えたヒンズー教の思想を背景に,「東洋人と西洋人の共存は可能であるのか」という深刻な課題に約10年の歳月を費やして取り組み完成したものである。<BR>作品は3部構成で,それぞれのタイトルが`Mosque'`Caves'`Temple'である。弁証法の手法によって,まず,西洋人から見たインドの混沌とした姿-「定立」(thesis)を示し,そこに西洋的論理や秩序-「反定立」(antithesis)を持ち込み,両者が激しく衝突する様を提示する。そして,総ては長年にわたって培われたインドの叡智(神秘的なヒンズー教の思想)によって統合される-「綜合」(synthesis)。言い換えれば,ヒンズー教の教義が東洋的要素と西洋的要素の両者を包み込む。<BR>ところが,フォースターは,総てを包み込むヒンズーの教えを観念的に理解できても,現実的には受け入れ難く,深い虚無感に陥ってしまう。それ故,作品の最後のところでプロットの乱れが見られ,具体的な人間関係の打開や,明るい展望が示されていない。そしてこれ以降,小説が書けなくなった。この様に,作品は究極的に虚無感をはらんではいるが,それにも関わらず,実際のところ,それが為に,東洋人も西洋人も人間として相互に理解し,共存に努めなくてはならないとする彼のヒューマニズムが姿を見せて作品が終わると言える。<BR>この論文では,インドの混沌を「時間」「空間」「音」から分析し,西洋的論理との衝突を経て,東洋と西洋の融合がなされる過程を,「水」「空」「風」というシンボルを中心に読み解く。
- 2008-09-16
著者
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