ツングの自記式抑うつ尺度の因子構造と同尺度による夜勤労働者の抑うつ状態有症率
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概要
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昭和63年に改正された労働安全衛生法たよって精神保健活動が勧奨された.職域での抑うつ状態の有症率が増加しているとする報告もある.一部の職域では,質問紙による自記式調査票で抑うつ状態にある社員の発見と支援の試みが受け入れられつつある.職域の精神保健は臨床治療とリハビリテーションを補完するものとしても重要である.さて,原版作成後25年を経過して現在も使用頻度の高い20項目からなるZung自記式抑うつ尺度(SDS)調査票の妥当性の検討を他の抑うつ尺度質問紙と一緒に行ったテストバッテリーの報告も少なくないが,それらの結果はかなり安定している.しかし日本人を対象にしたSDS質問項目の因子構成等の特徴については,ほとんど報告がないのが現状である.そこで,今回は抑うつ的な10質問項目を前半に,気分良好な10質問項目を後半に変更配置した日本語版SDSを日本の某運輸会社の夜勤者に対して実施し,抑うつ状態の有症率とSDS質問紙の尺度構成の特徴について対照を設定して検討した.2,394人の従業員のうち,月4回以上(平均月10回)の夜勤業に従事している1,931人の男子作業者を対象に調査を依頼し,1,274人(66.0%)が質問紙に漏れなく回答した.調査は,1991年春の健康診断時に,受診者全員に対して口頭および掲示にて協力を依頼し,その場で記入してもらった.対照者は日勤のみの作業者463人のうち,漏れなく回答した340人である.SDS調査票の各質問項目は4者択一で,訴えの軽いものから重いものへ1から4を配点している.それらを加算後,満点を100とするため1.25を乗じたSDS指数を使用した.個人識別のために,社員番号も併せて記入してもらった.対象者は27歳から54歳で,平均年齢は39.4歳であった.SDS質問紙の内的整合性をCronbachのアルファ係数で評価したが,夜勤者のそれは0.835,対照のそれは0.848であった.SDS指数は加齢とともに減少し,この傾向は対照でも同様であった.SDS指標で50,60,および70点をカットオフ値として,それぞれの数値に挾まれたものを軽度,中等度および重度抑うつ状態と定義すると,夜勤者のそれぞれの割合は13.7%,2.1%,および0.6%であった.一方,対照者のそれらは,13.5%,4.1%,および0.3%であった.健常者を対象にした他の研究でも,加齢に伴う抑うつ症状の減少は一致して認められるものである.次に,年齢と夜勤従事の有無を要因とするSDS指数の二元配置分散分析を行ったが,年齢がSDS指数に影響し,要因間の交互作用は認められなかった.さらに,SDS 20項目の因子分析では,バリマックス回転後,2つの因子が抽出された.第一因子は8つの気分良好な項目からなり,全変動の16.7%を説明している.第二因子は8つの抑うつ的な項目からなり,全変動の15.6%を説明している.残り4項目は「やせ」,「便秘」,「食欲良好」,「異性とのつきあい」で,身体的症状あるいは行動的欲求に関する項目であった.これら2因子で全変動の約1/3を説明していた.CES-D (The Center for Epidemiologic Studies Depression Scale)を使用した職域での日本人男性の因子分析結果でも,抑うつ的な質問群とその逆の質問群が別の因子として抽出されたとする報告に共通した所見である.なお,対照のSDS指数の因子構造も夜勤者のそれとほぼ同様であった.夜勤業務がSDS値に影響を及ぼすとする報告もあり,今回の夜勤に従事している作業者の抑うつ状態の程度が対照のそれと変わらなかったことについては,今後交代制勤務形態についてさらに詳細な調査が必要であろう.
- 1992-03-20
著者
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