繊維製品の汚れに関する研究(第6報) : 澱粉糊付綿布の酵素・石けん併用洗浄
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概要
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澱粉糊付布に付いた汚れを洗浄するのに,澱粉分解酵素(アミラーゼ)を併用すれば,糊付布上でβ化した澱粉が酵素によつて可溶化され,したがつて洗浄率が高まるものと考えて実験を行つたが,石けんまたは他の洗剤との間に,相互に性能を抑制するらしい現象を認めた。この実情を各種の条件による洗浄試験によつて認め,その原因をまた別の立場から考察した。本報には,洗浄試験に関する結果だけについて解析を加えたが,主要な結果は次の通りである。1)酵素液そのものは,未糊付綿布に対しては,蒸溜水だけによる洗浄性よりも低いくらいで洗浄効果はもたないが,澱粉糊付布に対しては0.02%以下の低濃度でもかなりの洗浄性を示す。SCMC・PVAなどによる糊付布に対しては,当然のことながら洗浄効果は現われない。(第1〜3表)2)酵素液だけによる澱粉糊付布の洗浄の場合に,濃度が増しすぎても効果はなく,0.02〜0.05%でじゆう分である。石けんだけを用いて洗浄するよりも,洗浄性は明らかに高い。(第4〜12表,第2〜7図)3)石けん液に酵素を併用して澱粉糊付布を洗浄する場合には,酵素の濃度が増すに従つて洗浄率が上昇する。しかし濃度の低い範囲ではむしろ酵素だけによる洗浄率よりも低いくらいであり,ある程度の添加量があつてはじめて酵素だけによる洗浄率よりも高くなつて,石けんによるプラスの洗浄効果が認められる。このことから,石けんと酵素との間には何らかの抑制作用が生じているものと考えられる。(第4〜12表,第2〜7図)4)上述の効果は,澱粉糊付布を標準のC-CCl_4汚染の代りに水性(水分散)の人工汚染をした場合になお顕著に現われ,石けん液に添加すべき酵素の量は多くなる。すなわち石けんと酵素との抑制作用が増大する。(第2・5・7・9表,第2〜6図)5)澱粉糊付けに用いる澱粉糊液の濃度が高いほど,酵素による洗浄効果は明らかになる。洗浄温度も,酵素の性能のために室温では効果が割合に少く,高温によるほどよい。ただし,石けんに併用する場合には,低温(室温)では糊付け濃度による洗浄性増大の効果は現われない。(第7〜10表,第3〜6図)6)石けんと酵素とを共存させて洗浄する場合に認められる相互の抑制作用は,石けんのアルカリ性のためではない。すなわち,中性洗剤として知られている市販の合成洗剤(高級アルコール系およびアルキルアリル系の代表品)に酵素を併用しても,石けんの場合と同様な現象が認められるが,これに反し,アルカリ緩衝液(pH9.2〜11.0)に酵素を併用する場合には,酵素だけによる洗浄性とほぼ同一であつて,抑制作用はほとんど現われない。(第11〜14,17〜18表,第7〜8,10図)7)石けんと酵素とを併用する場合に,共存時間にずれをもたせると,洗浄性を上昇できることを認めた。すなわち石けん液を洗浄母液として洗浄を始め,中途で酵素を添加すると,初めから共存させた場合よりも洗浄率は低くなり,洗浄の終りの方で添加したものは石けんだけによる洗浄と大差はない。ところが,酵素液を洗浄母液として洗浄を始め中途で石けんを添加すると,著しく洗浄性を増し,初めからの共存洗浄よりも酵素だけによる洗浄よりも洗浄率が高くなる。洗浄性をもたないアルカリ液と酵素との併用では,このような時間的な影響は現われない。これらの現象から,まず酵素によつて糊付布の澱粉を可溶化し,そこへ石けんの洗浄作用を有効に発揮させることによつて,共存洗浄の抑制作用をある程度まで防止できることを認めた。(第15〜18表,第9〜10図)。
- お茶の水女子大学の論文
著者
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松川 哲哉
Laboratory of Textiles, Faculty of Home Economics, Ochanomizu University
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松川 哲哉
Textile Laboratory Faculty Of Home-economics Ochanomizu University
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長命 俊子
Laboratory of Textiles, Faculty of Home Economics, Ochanomizu University
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長命 俊子
Laboratory Of Textiles Faculty Of Home Economics Ochanomizu University
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