纎維製品の汚れに関する研究 第2報 : 水分散媒人工汚染液による汚染
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概要
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カーボンブラックを油脂,鉱油とともに,水または四塩化炭素に分散せしめた人工汚染液を用いて,木綿およびビスコース人絹の平織物に対する汚染性並びに付いた汚れの洗浄による脱落性を検討して次の如き結果を得た。CCl_4分散液については前報にのべた標準組成,およびそれより油質成分を除いたものの両者を用い,水分散液の場合にもこれに対応して同様に油質成分の存否の両液について比較した。1)CCl_4分散液のほうが全体としては水分散液よりも汚染しやすいが,油質添加の影響による汚染性の増加は,CCl_4分散液よりも水分散液の場合のほうが著しく,油質添加の水分散液は同じくCCl_4分散液よりも,人絹についてはむしろ汚染性が大きく現われる。これらの現象は水分散液においてはカーボンブラックを包む油質の微相が生じ易く,繊維に対する付着性を増すためと考えられ,電子顕微鏡によつてもその存在が認められた。2)木綿は人絹よりも全体としては汚染しやすいが,CCl_4分散液にあつてはこの差が著しく,水分散液においてはほぼ同程度かまたはやや逆の傾向をもつ。いずれの分散媒の場合にも油質添加の影響は同質繊維であるために同様に現われる。木綿の場合には繊維表面の微細な皺にカーボンブラックが一様に付着しやすいので,汚染はされ易いが,容易に汚染される条件での汚れは蒸溜水洗浄でも比較的おち易い。人絹では繊維表面のたて方向に発達した溝状凹部に沿つて付着するので,カーボンブラックの大きな集合体は付着しにくくなり,付着した小さな集合の汚れは水洗浄では落ちにくくなる。これらのことは電子顕微鏡によつても認められた。3)付いた汚れの脱落性を洗浄効率によつて判断すると,全体としては水分散液によるものはCCl_4分散液によるものよりも落ち易く,CCl_4分散液による場合には,油質のない場合のほう,あるいは水洗浄に比べて石鹸水洗浄のほうが落ち易い。水分散液によつて汚染した場合には状況がかなり異り,水洗浄と石鹸その他の洗剤溶液を用いての洗浄とにおいてほとんど差が表われず,ともにCCl_4分散液による汚れの場合の両洗浄効率の中間となり,しかも油質の添加によつて油質のない人工汚染よりもむしろ落ち易くなる。この現象は洗剤の洗浄力試験に対して水分散媒人工汚染布を使用することには否定的な結果を与える。4)上記のことについては,水分散液による汚染の場合には,繊維の膨潤に伴つて試験布の乾燥後においてはカーボンブラック粒子が繊維表面の凹部に支えられたまま収縮し,洗剤溶液の効果を減少するものと考えられるが,CCl_4分散液の場合とは異り,界面活性剤を併用しているので,この汚れ成分並びに洗剤との交互作用も影響をもつものと考えられさらに検討中である。同じカーボンブラック等を用いた人工汚染液によつても,分散媒並びに繊維試料の違いによつて,汚染性にかなりの差違がみられることは,汚れの付着機構にとり興味ある示唆を与えることが多いものと思われる。
- お茶の水女子大学の論文
著者
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松川 哲哉
Laboratory of Textiles, Faculty of Home Economics, Ochanomizu University
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松川 哲哉
Textile Laboratory Faculty Of Home-economics Ochanomizu University
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