日本産のクマ目(甲殻綱)の1新種Platysympus muranoi sp. nov.について
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概要
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1979年8月に東京水産大学の海鷹丸によって,房総半島野島崎東方沖の水深260-335mの海底から,ソリ・ネット(bottom-net: OMORI, 1969)を用いて採集されたクマ類Cumaceaの標本は,東京水産大学の村野正昭博士より同定のため筆者にあづけられた。筆者がこれらの標本を調べた結果,それらのうちに,ランプロプス科Lampropidaeのプラティシソプス属Platysympusの1種と考えられるものがあった。この属のクマ類は従来おもに大西洋を中心に南極海などの海域の188-1200mのところから3種類と1未確定種が知られていた(SARS, G. O., 1900; ZIMMER, 1907, 1913; HANSEN, 1920; FAGE, 1951; LOMAKINA, 1958; JONES, 1969; REYSS, 1978),しかし,最近になり南アフリカ南端附近の大西洋と印度洋側から4種類(Day, 1978)が記載された。日本近海からは,相模湾下田沖の430m深から淡青丸(東京大学海洋研究所)によって採集された標本に基づき,筆者によって1975年に記載されたP. japonicusが最初のものである。今回,新たに房総沖から得られた標本は,上述の相模湾産の種,大西洋産のP. typicus (G. O. SARS, 1870); P. brachyurus (ZIMMER, 1907); P. tricinctus HANSEN 1920及び南アフリカ産のP. phylloides DAY, 1978; P. depressus DAY, 1978; P. compressus DAY, 1978; P. camelus DAY, 1978の何れの種類とも,背甲の形態及び本種の尾肢柄節が尾節の長さに殆んど近いなどに明らかな相違がみとめられ,種を異にするものと考えられる。ここに村野正昭博士の名を冠して,新種P.muranoiとして記載する。本新種記載の基となった模式標本は,唯1匹の亜成雌(体長約5mm,尾節を除く)であり,可成り破損の著しいものの,種の同定に必要な要素は充分残されていた。本新種の主要な特徴は次の様である。1)背面よりみると,背甲は後方に狭まり,卵型をしている。2)背甲を側面よりみると,背甲腹面は平坦であるが,背甲背面は背方に隆起しており,特に中央部で高い山型をしている。更にその後方の後縁中央近くに,もう一つの高い山型隆起をそなえ,一見,双峰駝の背に似た態じを与える。3)背甲の両側縁は平板状に強く張り出し,鋭い隆起線を背甲全長に渡り形成している。4)第1自在胸節は鞍状をしており,その前縁は幅広く,最大甲帽の約1/4を示しているが,後縁は著しく幅狭くなっている。5)尾節は尾肢柄節の長さよりも僅かに短かく,末端に3棘を有する。6)尾肢の内肢と外肢の長さは互いに等しく,それぞれ尾肢柄節の長さの約3/4を有する。
- 横浜国立大学の論文
- 1980-11-29
著者
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蒲生 重男
Department of Biological Sciences, Graduate School of Science, The University of Tokyo
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蒲生 重男
Department Of Biology Faculty Of Education Yokohama National University
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