甘しょ品種の塊根の組織構造とでん粉蓄積能力との関係に関する育種学的研究
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概要
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作物の栄養器官が同化産物の貯蔵器官として特に発達し, その器官の貯蔵物質の含有率が作物の品種によって異なる場合, 含有率の差異が貯蔵器官のどのような構造の差異に基づくものであるかと云う観点から, 貯蔵器官の構造とその機能の発現との関係を解明した研究は、きわめて少ない.本研究は, 以上のような観点より, 作物の同化産物の貯蔵器官の組織構造とその蓄積能力との関係に関する基礎的資料を得る目的で, 甘しょの塊根を材料としておこなったものであって, 塊根の組織諸形質の品種・系統間変異, およびその遺伝を検討し, 塊根の組織諸形質の特性から得られた知見に基づいて, 甘しょ高でん粉多収性品種の育種に関して考察をおこなったものである.A 塊根の組織構造塊根組織に関する明確な基礎的知見を得ることを目的として, でん粉貯蔵器官にとってとくに重要と考えられる維管束の分化と柔細胞の増生に焦点をあてながら, 発生初期の不定根から収穫期の塊根に至る一連の組織観察の結果を論述した.I 不定塊の根端部における組織の分化 甘しょ品種沖縄百号の栽植5日後の不定根を供試して, 根端部における組織の分化様相を観察した.1 根冠はその中央部を構成する中央構造とその側層を構成する側層構造とからなっている.2 横断面では, 根冠の中央構造の細胞は一定の配列様式を示さないが, 根冠の側層構造の細胞は, 中央構造を取り囲む輪状配列を示している.3 根冠の最内層は表皮原となっている.4 表皮原に接して頂端側(根冠側)と基部側(皮層および中心柱側)の両側に分裂組織がある.5 皮層は約8層の細胞層からなり, 横断面では, 中心柱を取り囲む輪状構造を示し, 根端部から約200μの部位では, 細胞間隙が認められる.6 内鞘細胞は, 表皮原先端部の基部側にある分裂組織から2〜3個の細胞を隔てた極先端部において識別できる.7 中心柱の先端部には表皮原の基部側の分裂組織に接して, 不整形の細胞よりなる半球形の部分が存在する.8 原生篩管は, 中心柱の先端部から約500μの部位において明瞭に認められる.9 原生木部道管の厚膜化が認められるのは, 中心柱の先端から1cmないし2cmの間である.10 中心柱の柔細胞は, 縦軸方向では皮層細胞より長く, また, 横断面におけるその細胞配列には一定の様式がみられない.11 軸の中心を通る縦断面では, 中心柱の中心部には大きな核をもった比較的大型の細胞からなる一列の細胞列があって, 頂端分裂組織のごく近くまで達している.II 不定根の塊根形成 沖縄百号および九州34号を供試して, 栽植5日後より1カ月間5日おきに合計6回不定根を採取し, 不定根の最肥大部または最肥大予想部位の組織標本を作成して, 塊根組織の分化発達過程を追跡した.1 栽植5日後には, 皮層は約8層の細胞層からなり, 離生細胞間隙にとむ.内鞘細胞はその並層分裂により中心柱の細胞数を増加し, 直層分裂によって内鞘細胞自身の数を増加してその円周を増加している.原生篩部は内鞘に接して, 5〜6個所に放射状に認められ, その周囲には, すでに伴細胞を伴う後生篩部が分化している.原生木部構成道管の細胞膜は厚膜化しているが, まだ木化しておらず, 原生木部は完熟していない.2 栽植10日後には, 厚生篩部に対応する皮層部に破生細胞隙が認められる.原生木部道管および中央後生木部道管が木化し, 成熟する.また, 篩部を取り囲む扇形の分裂組織が発達する.3 栽植15日後には, 中心柱では一次形成層が完成し, 道管周囲に分裂組織が発達する.4 栽植20日後には, 一次形成層による維管束ならびに柔細胞の増生が旺盛となる.道管周囲の分裂組織による柔細胞の増生も顕著であるが, この分裂組織は直接には維管束の分化をおこなわないので, いわゆる形成層とは認め難い.木部柔組織内に新しい篩部が分化し, この篩部に接して分裂組織が発達するこの分裂組織は維管束を分化するので, 形成層と認められる.従って, この木部内に発達した篩部(interxylary phloem)に接する分裂組織は, 先に分化した塊根周囲の一次形成層に対して, 二次形成層(secondary cambium)と呼称すべきである.5 栽植25日後には, 前期までに認められた諸種の分裂組織による細胞の増生は依然旺盛であるが, さらに, 木部柔組織の個々の大型の柔細胞が, 比較的孤立的に分裂するのが観察される.この種の細胞分裂は維管束の分化を伴わず, また一連の分裂細胞層の形をとらないので, 前期までの諸種の細胞分裂に対して, とくに, 大型柔細胞分裂として区別できる.6 栽植30日後には, 皮層はほとんど脱落し, 新しく, コルク形成層が発達して皮部を形成する.中央道管の周囲の分裂組織の活性はやや衰える.この時期に, 甘しょの塊根の組織学的諸形質は完成する.7 以上の観察結果から, 塊根肥大に寄与する細胞の増生は, コルク形層, 一次形成層, 二次形成層, 道管周囲の柔細胞分裂および大型柔細胞分裂によるものと結論される.これらの細胞分裂の中で, 一次形成
- 鹿児島大学の論文
- 1973-03-24
著者
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