愛鷹山南麓域における黒ボク土層生成史 : 最終氷期以降における黒ボク土層生成開始時期の解読
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概要
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愛鷹山麓に分布するテフラ-土壌累積層(愛鷹ローム層,現世腐植質火山灰土層)では約3.2万年前の上部ローム層最下部期以降ほぼ連続して黒ボク土層の生成が見られる.本研究では土手上断面と元野断面から得られた土壌の化学特性と化石珪酸体群を用いて愛鷹山麓における黒ボク土層の生成史について考察した.pH(NaF)は中部ローム層最上部以上のテフラ-土壌累積層を通じて9.5以上を示し,腐植の集積能に差は認められなかった.化石珪酸体群はメダケ属,ササ属起源の珪酸体とキビ亜科起源の珪酸体が優勢であり,黒ボク土層の生成可能な冷温帯から暖温帯の気候が中部ロームの最上部期以降継続したことを示した.上部ローム層のメラニックインデックス(MI)は概ねA型腐植酸に対応する1.7以下の値,一方,中部ロームでは非A型に対応する1.7超であり,中部ロームと上部ロームの画期で森林が草原へ変わりその後草原が継続したことを示した.この植生の変化は愛鷹山麓における人の営みの開始と連動していた.このことから,愛鷹ローム上部ローム層最下部期以降ほぼ連続して黒ボク土層が生成したのは,愛鷹山麓においては他地域に比べて稠密な人為の継続とそれによる植生改変が深く関わっている可能性を論じた.また,愛鷹ローム層中の黒ボク土層の色調が完新世に匹敵するほど濃色であるのは,最終氷期においても愛鷹山麓が暖温帯に対応するイネ科植物相が成立するほど温暖であり腐植化度の進んだ腐植酸が生成したことによると推定した.上部ローム最上部に認められる明瞭な非黒ボク土層である休場層については,最終氷期においてより寒冷な周辺地域からより温暖な愛鷹山麓への過度な人の移動がもたらしたと推定される植生の衰退が原因である可能性を論じた.他方,土手上断面における現世腐植質火山灰層中の非黒ボク土層である栗色土層は,常緑広葉樹起源の珪酸体に富んでいることから,黄褐色森林土に分類される森林土壌と認定された.最終氷期以降の日本における黒ボク土層の生成史には2時期の境界が認められる.一つは更新世と完新世の境界,約1万年前における地球規模の気候の温暖化に対応し,他方は日本列島における人の営み開始時期,約3.2万年前に対応する.
- 地学団体研究会の論文
- 2006-03-25
著者
-
渡邊 眞紀子
東京工業大学大学院総合理工学研究科環境理工学創造専攻
-
加藤 芳朗
静岡大学
-
細野 衛
東京自然史研究機構
-
佐瀬 隆
岩手県立一戸高等学校
-
佐瀬 隆
北方ファイトリス研究室
-
青木 久美子
関東学院大学
-
渡邊 眞紀子
東京工業大学大学院総合理工学研究科環境理工学創造専攻:首都大学東京都市環境科学研究科都市環境科学専攻
-
渡邊 眞紀子
東京工業大学大学院総合理工学研究科
-
渡邊 眞紀子
東京工業大学大学院
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