壱岐, 長者原層の昆虫化石
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概要
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壱岐芦辺町八幡の長者原海岸の珪藻土層中から産出する木の葉および魚化石は, 古くからよく知られているが, 昆虫化石はこれにくらべるとはるかに少なく, わずかに4標本が報じられていたにすぎない。金滝大八郎(1935)は, 明治42年∿大正2年の在島中に昆虫化石3個を発見, うち1個が故江崎悌三博士により, ケバエの1新種の雌と同定されたことを報じている。同年江崎自身もこれにつき簡単な報告をし, Bibio sp.としている。この標本は現在も京都大学地質学鉱物学教室に保管されており, 本報文でPlecia kanetakii sp. nov.として記載したものである。他の1個は大震災で焼失, 1個は所在不明である。樗木昇一(1952)は壱岐の化石の報文中で, 林徳衛採集の昆虫化石を報じ, これも江崎の鑑定によりヒシバッタ科の1新種で, 熱帯産のある属のものに似るが, それよりはるかに大型であるとしている。同氏はこの他に双翅類化石1個を得ているが, 惜しいことに両者とも目下所在が明らかでない。本報文で取扱った標本は, 1969年国立科学博物館の行なった対馬および壱岐の総合研究による発掘の際に得られた3標本, 壱岐郷土館および八幡小学校に保管の各1個, 1965年藤山採集の1個体, それに前記京都大学所蔵標本の計7標本, 6種である。1. Terpandrus? ikiensis FUJIYAMA, sp. nov.(キリギリス科テルパンドルス属?)体長72mmに達する大型のキリギリス類で, 前脚の脛節に鋭いとげのある点, およびその翅脈はわが国のササキリに似ている。しかし化石では, このとげが前脚の腿節, 中脚の腿, 脛節にもあり獰猛な性質であったことを物語っている。この点はSaginae亜科であることを思わせ, 形や翅脈も現在オーストラリアに分布するTerpandrusとひどい違いがないので, ここでは仮にこの属に所属させておいた。しかし, ササキリ型の翅脈および脛節のとげは, 分類上の位置を異にするいくつかのグループに見られ, これだけで属をきめられるほど決定的な性質ではない。おそらく, この化石は新属を代表するものと思うが亜科や属の識別に役立つ頭部および趺節が保存されれていないので, 新属の設定はさしひかえた。(郷ノ浦町壱岐郷土館所蔵)。2. Aphaenogaster (Deromyrma) avita FUJIYAMA, sp. nov.(アリ科アシナガアリ属)翅長11mm。おそらくメスの羽蟻。翅脈から判断して, アシナガアリ属のDeromyrma亜属のものと思われる。この属の他の亜属のものは, 第2肘室があるが, この亜属では第2肘横脈が消失したため肘室が1つしかない。同様な翅脈をもつものにSolenopsisトフシアリ属があり, 触角さえあれば識別が容易であるが, 化石では保存されていない。トフシアリ類には, この化石のように胸部にしわ状の彫刻のあるものがほとんどないこと, 翅脈の形状などからDeromyrma亜属のものと判断した。3. "Apis" sp.(ミツバチ科ミツバチ属)翅脈からみて明らかにミツバチの1種で, 腹節や脚から女王と推定される。東南アジアに分布する大型のMegapisでないことはたしかだが, 化石ミツバチの文献が不足なので属種の決定は後日にまちたい。4. Plecia kanetakii FUJIYAMA, sp. nov.(ケバエ科アシボソケバエ属)頭部を除いて保存良好な標本で, 翅脈からPlecia属と判断される。Rsから前方に小さな枝がでて, 前縁に終っている。Cu_1の基部は明瞭でないが, 短い横脈で前後の縦脈に連なるようである。この横脈と, RsとMをむすぶ前方の横脈との間隔の大きいことが, 本種の特徴といえよう。触角は短かく, 脚は腿節も太くなく, とげも見られない。(京都大学地質学鉱物学教室所蔵)。5. Bibio? sp.(ケバエ科ケバエ属?)標本は背面を下にしており, 翅脈が観察できないので属を決定することがむずかしい。しかし, 大きさ, 全形, ふくらんだ腿節などからBibioの可能性が強い。6. Mycetophilidae, gen. et sp. indet.(キノコバエ科属種未定)恐らくキノコバエ科に属すると思われる2標本。翅長がそれぞれ12.5mmおよび13.5mmと, キノコバエとしては甚だ大きい。翅脈はRとMをむすぶ横脈r-mを欠き, Rsは低角度でR_1から分岐している。このようなr-mをもたないキノコバエは現生, 化石とも見当らず, 新属を代表するものと考えられる。しかし標本の保存は良好でなく, 将来同種がさらに発見される可能性もあるので, 後日改めて記載することにした。横脈r-mの欠除は, 原始的な形態を残していると考えるより, r-mの退化したものと解した方がよいであろう。以上6種中, Deromyrma亜属は東洋熱帯に分布の中心があり, 台湾まで見出される。
- 1970-10-20
著者
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