東北地方の新第三紀シロアリ化石付 同地方の昆虫化石の産状
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概要
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国立科学博物館で継続実施中の日本列島の自然史科学的総合研究に参加し, 1982年, 東北地方の脊梁山地以西, 日本海までの地域を対象として調査を行った。この地域は, 古い地層よりなる北上山地と対蹠的に, 大部分が第三紀中新世初期に始まる新しい堆積物よりなっている。本地域の地質構造発達史の研究は, 北村信(1959,1981ほか)によって進められ, 化石フロラは藤岡一男(HUZIOKA, 1964ほか)により明かにされ, 1974年に中新世フロラが総括されている。 当地域の中新世初期の沈降域は, 現在の東北脊梁山地とその西方の地域に生じ, この陸内湖盆に堆積した地層は, 温帯林の組成を示す"阿仁合型植物群"をふくみ, 炭層をはさむこともある。次いで, この細長い沈降域は海域となり, 縁辺の海岸に近い低地に堆積したと思われる地層からは, より温暖な気候を指示する"台島型値物群"を産出する。中新世前期と考えられるこれらの植物化石層は, 阿仁川上流以外にも, 当地域の北から南まで点々と分布し, 植物化石を豊富に産出するが, 昆虫化石は意外に少なく, 阿仁合型で1カ所, 台島型と思われるところで3カ所, しかも各産地とも1∿2個体の産出にすぎない。しかし, もし新潟県佐渡の関(阿仁合型)のような火山活動に伴なって生じた湖盆の堆積物が発見されれば, 今後昆虫化石の産出も期待できよう。 その後沈降域は西に移り, 中新世後期には現在の脊梁山地の地域は隆起して海面上に現れた。活発な火山活動にともなって陥没性の湖盆が各所に生じ, そこに湖成堆積物が生成した。時代, 環境に多少のちがいはあるものの, このような湖成層は脊梁山地の北から南に点々と存在し, 豊富な植物化石を伴っている。この時代の当地域のフロラと地史については, 植村和彦(1977)が研究を進めている。昆虫化石産地は現在のところ11産地が知られ, そのうち4∿5 か所からはかなりの数の産出があり, 将来の発見も期待できる。 脊梁山地の西の地域では, 鮮新世に入ってもひきつづき海岸低地に褐炭をともなう堆積があり, 1か所で甲虫化石が発見されている。 調査地域内から産出した昆虫化石について, 産地ごとの産出個体数をタクサ別にして Table 1 に示す。標本には不完全なものが多く, 属・種までの同定は未了なので, 種類数については表わせなかった。 本報文では, これら脊梁山地以西の新第三紀昆虫化石のうち, シロアリ(等翅目)に属するものを報告する。4産地より8個体のシロアリ化石を得たが, うち2個体は破片で同定に耐えないので除き, 6個体について下記の5種を記載した。何れも中新世後期の植物化石と共産したものである。 Ulmeriella uemurai, sp. nov. U. shizukuishiensis, sp. nov. Hodotermopsis, iwatensis sp. nov. Stolotermes? amanoi, sp. nov. Rhinotermitidae, gen. et sp. indet。 初めの4種は, 原始的な科であるオオシロアリ科 Hodotermitidae に属し, このうち Ulmeriella 属は, ∃ーロッパ, シベリア, 北米の中緯度の地域から化石だけが発見されている絶滅属で, シベリアと北米の中間の日本でもその分布が知られたことになる。Hodotermopsis 属は, わが奄美大島, 屋久島, 九州南端から1種, ベトナム北部から他の1種の現生種が知られているだけで, 現生種は地質時代の遺存種と考えられる。Stolotermes はオーストラリア, ニュージーランド, 南アフリカから現生種6種が知られるのみで化石の記録はない。原始的なシ口アリ類の翅脈にはかなりの個体変異があり, 1個体の翅脈のみで属の決定をするには多少の危険がともなうが, もしこの種の所属がこれで正しければ, 分布上興味深い。しかし, 現在オーストラリア北部のみにすむ Mastotermitidae の化石が世界各地(未記載であるが日本からも)で発見されることからみて, 不思議な現象とはいえない。最後の種は, ミゾガシラシロアリ科のものと思われる。属を示す特徴が保存されておらず, 新種の設定はできなかったが, 現在日本の主部に生息する現生種2種とは全く異なる。
- 1983-12-01
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