ニガナ属(キク科・タンポポ連)の分類学的研究 : I. 果皮の解剖学的特徴とその分類学的意義
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概要
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本研究は,キク科タンポポ連のなかで主として東アジアに分布するニガナ属並びにその近縁属の種の類縁関係と分類学的帰属に関する再検討を行ったものである。従来このグループには,NAKAI(1920),STEBBINS(1937),KITAMURA(1955, 1956)らによって一つないし三つの属が認められていたが,形質の分化が複雑であるところからその評価は研究者によって著しく異なり,必ずしも一致した見解が得られていなかった。従って,この一連の研究では,従来導入されていなかったそう果の解剖学的並びに核学的形質の綿密な比較研究を通して形質の進化傾向を明かにすると共に,種間の類縁関係の把握に努め,これらの新知見に基づいてこの群の分類学的再検討を行った。4部から構成されている論文の第一論文である本報では,ニガナ属における果皮の内部構造の分化を解剖学的及び発生学的手法を用いて明らかにすると共に,併せて行った核学的諸形質(PAK and KAWANO, in press)の詳細な比較研究の結果と総合して得た結論について述べた。まず,mesocarpにおけるfiber-sclereidとlibriform fiberの形態,その発達度合との組織の分布を比較研究することによって,これらの形質の分化がニガナ属植物のそう果の二つの型,すなわち,winged typeとribbed typeによく一致することが明らかにされた。さらに,発生過程を詳細に追跡することによって,winged typeでは子房壁組織に部分的に局在した細胞分裂によって翼形成が引き起こされるのに対し,ribbed typeでは発生途中段階から維管束間の細胞の退化によって肋状の突起または稜が形成されることが明らかとなった。この結果は,染色体の諸形質の観察結果ともよく一致する。すなわち,ニガナ属(広義)には染色体基本数がx=8とx=7の二つのグループが存在するが,基本数が8のグループでは休止核の形態はprochromosome typeであり,また相対的な染色体サイズが小型であるのに対し,基本数が7のグループはdiffuse typeで大型である(PAK and KAWANO, in press)。これらのx=8, x=7の植物群は,そう果の内部構造の分化や他の外部形態上の諸形質の分化ともよく対応することが明らかになった。従って,Ixeridium節に帰属する大型のx=7の染色体と稜をもった果実をつくる11種は,TZVELEV(1964)も認めているようにIxeridium属に含めることが妥当であると考えられる。命名に関連した新見解は第4論文(PAK and KAWANO, in press)の中で整理されている。
- 日本植物分類学会の論文
- 1990-09-25
著者
-
河野 昭一
Department Of Botany Graduate School Of Science Kyoto University:kyoto University
-
河野 昭一
京都大学理学部植物学教室
-
朴 宰弘
慶北大学校自然科学大学生物学科
-
朴 宰弘
Department of Botany, Faculty of Science, Kyoto University
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