現代イタリア美術について
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概要
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イタリアの現代美術の歴史は、一九一〇年の未来派運動をもってはじまるが、すでに世にみとめられていた画家ジャコモ・バッラや、ウンベルト・ボッチオーニ、ルッソロ、カルラのような数人の若いひとびとが、この文化的で、文学的な活発な改革運動の中心となったのである。この運動は、その前年に、詩人F.T.マリネッティが提唱したもので、フィギュラティブ・アートの革新の最初のプログラムがイタリアの文化のみならず、政治的、社会的な慣習の全般的な改革という、より広範囲のプログラムと関連していたことは意義深い事実である。これは、官僚的なアカデミズムの因襲に対する反逆が、フィギュラティブ・アートをも時代の進歩にあわせて改革しようという意図によって起ったことを意味する。このプログラムは事実、知的革命における芸術の特殊な役割をあきらかにしめすことを意図した「技術の宣言」のなかにあらわされており、知的革命はまたそれなりに、イタリア人の生活の革命、あるいはすくなくともその急激な変化のなかにも見られるべきものであった。未来派は、論争的で、はげしく挑戦的かつ破壊的な面と、積極的で建設的な面とをあわせもっている。論争は、官僚的でアカデミックでブルジョワ的な芸術に対してむけられ、建設的な関心は、これに反して、当時のヨーロッパの美術のもっとも進歩的な潮流、すなわち一方ではドイツの表現主義に、他方では立体派(キユビスム)にす対る賛同によってしめされている。その明瞭なプログラムにもかかわらず、未来派は首尾一貫した傾向とはかんがえられず、あらゆる論争的な運動とおなじく、矛盾にみちたものなのである。しかしまさにそれが故に、それはたんにヨーロッパの進歩した美術の地方的な反動としてのみ受けとることはできないのである。芸術をその偉大ではあるが、すでに完結した伝統の重圧から解放するという明白な意図とイタリア人の芸術的天才の創造力の高揚とのあいだには幾多の矛盾がある。なぜならば、イタリア人の芸術的天才はまさに伝統を形成する作品のなかに表現されているからである。またあらゆるロマン主義の残滓に対する公然たる論争と、「精神の状態」をそのあらゆる激しさのうちに表現しうる、いちじるしく感情的な芸術の探究とのあいだにも矛盾がある。なぜならば、ロマン主義芸術は、「精神の状態」の感情的、表現的な芸術だからである。さらにまた機械や工業文明に対する未来派の情熱と、ブルジョワジーの文化、すなわち技術と工業の進歩にもとづく文化に対する論戦とのあいだにも矛盾がある。最後に、未来派とその熱烈な国家主義の、社会主義的革新と無政府主義的革新のあいだにも矛盾がある。しかしながら、これらすべての矛盾は、第一次世界大戦直前の時期におけるイタリアの歴史を客観的に眺めることによってかなり容易に説明することができるのであり、未来派のきわめて独創的な様相を形成しているのである。ヨーロッパの近代美術史において、イタリアの運動は、立体派よりも重要性においてわずかに劣っている。だが立体派よりも未来派の方がはるかに「アヴァンギャルド」のすべてのヨーロッパの運動、つまり、ロシアにおいてまさに革命の芸術となるところのものをはじめとして、革命の希望または思想と結合した芸術運動の根元なのであるということを忘れてはならない。立体派はそれ自体たしかにアヴァンギャルドとはかんがえられない。むしろ、それはデカルトの合理主義の古典的精神への復帰であり、現実の経験をふくむ新しい知的構造の組織的な探究であり、美術活動の新しい理論的根拠の提案なのである。簡単にいえば、ピカソやブラックの分析的立体派は、その最初の形成において、芸術の新しい「客観性」をつくり、その真実性は、感覚の印象、すなわち印象派が現実についてあたえたところのイメージとは非常に異ったものではあるが、現実をあるがままに表現することを可能にする堅固な形式の価値を定めようとするかたむきがある。未来派はこの客観性をおなじように絶対的な主観性とする。つまり、一定不変の客観的現実は存在せず、定められた歴史状態のなかに生活し、行動し、参加する人間としてわれわれがもっている現実の概念を、芸術は誠実さまたは真実性をもって表現しなければならないということを肯定しょうとするものである。
- 1968-01-20
著者
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