イネ幼植物の低温枯死症状の遺伝変異
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概要
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育苗中に低温に遭遇したイネ幼植物が枯死する低温枯死症状の発生は,育苗の安定化にとって大きな障害であり,この抵抗性は,穂孕期や出穂開花期の低温ま氏抗性と同様に重要な形質である.栽培稲における低温枯死症状の遺伝変異を明らかにするため,人工気象室を用いた検定方法を検討した.35品種を用いて1,5,8,12,15℃の処理温度と2,4,7日間の処理期間との組合せによる低温処理を行なった.12日苗を用いた場合,1℃・2日間,1℃・4日間,5℃・4日間,5℃・7日間,8℃・7日間処理は反応の品種間変異が大きかったが,このうち,低温、に対する反応を最も良く検出できる方法は5℃・4日間処理であった(Table 1). アジアを中心に世界各地から収集・導入した2,151品種の在来稲について,5℃・4日間の低温処理に対する反応を処理後6日に調査したところ,地理的変異に明らかな特徴を認めた(Table 2).日本,ヨーロッパ,米国,ソ連など高緯度原産の品種は低温処理に対して抵抗性のものが多く,一方,インドやネパールのように低緯度原産の品種は感受性であった.しかし,低緯度であってもインドネシアやフィリピン原産の品種は比較的抵抗性が高かった.インドのカシミール地方の品種のように比較的低緯度であるが,高標高地帯の品種は抵抗性を示した.ラオス,タイ,ミヤンマー(旧ビルマ),中国南西部の一部品種は山岳地帯原産であり,抵抗性であった.中国南西部,ミャンマー,ラオス,タイ,ブータン,マレーシア産の品種は抵抗性から感受性まで幅広い変異を示した(Fig.2). 以上のように,低温枯死抵抗性は,高度,緯度すなわち温度環境と対応して明確な地理的傾斜を示している.一方,多様性の中心地域は中国南西部,ミャンマー,ラオス,タイ,ブータン,マレーシアであり,これらの地域はこの形質にとっての遺伝資源の供給地として重要であると考える.
- 日本育種学会の論文
- 1990-12-01
著者
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