イネ幼植物に見られる低温枯死抵抗性の遺伝
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概要
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前報において著者らは人工気象室を用いてイネ幼植物の低温枯死症状(chilling injury)の検定方法を検討した.その結果,5℃4日間の処理が選抜のための最適温度処理条件であること,世界各地から収集した2,151品種の在来稲の低温枯死症状の変異を調査したところ,高緯度原産の品種は抵抗性であり,低緯度原産の品種は感受性であることなど,明らかな地理的傾斜が存在することを報告した.本報では,5℃4日間の低温処理によって発現するイネ幼植物の低温枯死抵抗性の遺伝を調べた.低温枯死症状のスクリーニングの結果から選定した抵抗性品種間および感受性品種間の組合せにおけるF_1植物は,それぞれ抵抗性,感受性を示した.それらのF_2雑種集団では表現型に分離は観察できなかった(Table 1).一方,抵抗性品種と感受性品種間の組合せにおけるF_1植物はすべて抵抗性であり,F_2集団では抵抗性と感受性とが3:1に分離し,単遺伝子分離の期待頻度によく適合した(Table 2).F_2個体の自殖により得たF_3系統を分析したところ,抵抗性ホモ,抵抗性・感受性分離,感受性ホモの3系統がそれぞれ1:2:1に分離し,F_2世代で得た結果を確認した(Table 3).したがって,5℃4日間の低温処理に対する低温枯死抵抗性は単一の優性遺伝子によって支配されると結論した.イネ幼植物時の低温ストレスとして他に低温クロロシス症状が知られている.低温枯死症状と低温クロロシス症状が同一の遺伝子によって支配されているか否かを明らかにするため,同一のF_2雑種集団を用いて低温枯死症状と低温クロロシス症状の分離を調べた.低温枯死症状に関して抵抗性と感受性とが3:1に分離し,一方,低温クロロシスに関しても正常とクロロシス個体が3:1に分離したが,両者は独立であった(Table 4).以上から,イネ幼植物時の低温ストレス抵抗性に関して少なくとも複数の異なる遺伝子座が存在することが明らかとなった.
- 1991-03-01
著者
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