冬季における最近の大気・海洋の長周期変動の特徴について
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
最近数十年の冬季における, 下部成層圏・対流圏・海洋表層の長周期変動とそれらの関係について記述する. 冬季平均の北半球500hPa高度と, ほぼ全球の海面水温 (SST) の特異値分解 (SVD) 解析により, 数年以上の時間スケールを持つ変動には2つの種類があることを示す. さらに, SSTの3か月平均だけを前後にずらせたラグSVD解析を用いて, これらの変動の大気・海洋間の因果関係について考察する. また冬季平均50hPa高度と500hPa高度のSVD解析の結果から成層圏と対流圏との関連を調べる. 500hPa高度とSSTのSVD第1モード (SVD _<SST>-1) と, 500hPa高度と50hPa高度のSVD第2モード (SVD _<Z50>-2), あるいは前者の第2モード (SVD _<SST>-2) と後者の第1モード (SVD _<Z50>-1) は, 極めてよく一致する. SVD _<SST>-1, SVD _<Z50>-2は, エルニーニョ南方振動 (ENSO) のシグナルと, 1970年代半ばの熱帯太平洋SSTと北太平洋上の500hPa高度それぞれの, 階段状の急激な上昇・低下をとらえている. これに伴い中緯度では偏西風の強まりがSSTの低下を強制しており, 下部成層圏の高度偏差は波数2の成分が増大する特徴を見せた. これに対して, SVD _<SST >-2とSVD _<Z50>-1は北半球冬季の成層圏を含む大気全体の内部変動モードと考えられる. この変動は冬季成層圏極渦の強さと密接に関係しており, 対流圏ではNAO (North Atlantic Oscillation) パターンの特徴を含むが, 東アジア域での高度場の変化も大きい. また, このモードは大気下層の風系の変化を通して中緯度のSSTにも影響を及ぼし, 特に冬から春にかけて, 北大西洋の南北三極型の偏差パターンを強める. SVD _<SST>-2やSVD _<Z50>-1の時系列は卓越した十年スケールとトレンドを持ち, 最近では1980年代末に急激に符号を変えた. このような長周期の存在は, 大気の内部変動と数年以上の記憶を持つ気候要素との関連の可能性を示唆する.
- 社団法人日本気象学会の論文
- 1997-08-31
著者
関連論文
- A204 2009年北半球成層圏突然昇温による熱帯の積雲活動と絹雲への影響について : 成層圏循環場と赤道季節内変動との関係を探る(中層大気)
- D310 熱帯積雲対流活動に対する成層圏突然昇温現象の影響 : 2001年12月の突然昇温予報実験結果から(中層大気)
- A302 南半球環状モードへのオゾンのインパクト : 大気=化学結合モデルの解析(気候システムIII)
- B305 太陽活動による南半球環状モードの変調(気候システムIII)
- 極夜ジェット振動と円環モードの関係
- 太陽活動の極夜ジェット振動に及ぼす影響
- 北極振動における成層圏、対流圏成分
- 極夜ジェット振動と北極振動の関係
- 極夜ジェット振動 : 解析と数値実験
- 冬期北極点温度偏差の周期的構造
- P439 2007年南半球突然昇温時の熱帯での絹雲・対流活動について
- 南半球の二年周期変動について
- 北半球冬期における対流圏成層圏の変動パターン
- P436 シベリア針葉樹林のツンドラ化に対する気候モデルの応答実験
- 成層圏変動とその気候に及ぼす影響に関するつくば国際ワークショップの報告
- A203 2009年1月の成層圏突然昇温現象の熱帯成層圏・対流圏への影響(中層大気)
- P420 熱帯の絹雲分布に見る2002年南半球成層圏突然昇温の影響
- P207 インド洋ダイポール現象に対するENSOの影響に見る太陽活動の役割(太平洋・インド洋域における大気海洋結合現象)
- インド洋ダイポール現象に対するENSOの影響に見る太陽活動の役割
- D207 成層圏過程を通じた太陽活動の影響 : 数百年周期変動(スペシャルセッション「力学・化学・放射過程を通した太陽活動の地球大気に及ぼす影響」)
- A303 太陽活動の影響はどこに見られるのか?(気候システムIII)
- A456 北大西洋振動と北極振動 : その空間構造の違い(北極振動と中高緯度大気循環)
- ユーラシアの昇温と北大西洋振動
- 冬季循環場の年々変動と高周波変動
- 北半球冬季成層圏-対流圏の年々変動
- 成層圏突然昇温に伴う対流圏循環の変化
- 月例会「大気大循環と長期予報」の報告 : 1.ブロッキングの局所非線形共鳴理論(レビュー) 2.モドンのお話 3.ブロッキングの事例解析(1989年2月) 4.ポテンシャル関数を用いたブロッキング渦解析の試み 5.成層圏突然昇温とブロッキング 6.1994年7月の事例解析
- B210 全球大気モデルを用いた2005年12月予報場の大気初期値に伴う変動(気象予報)
- A308 全球大気モデルを用いた2005年12月の予報における初期値及び下部境界条件依存性(気象予報II)
- A164 全球大気モデルによる2005年12月の予報における初期値及び海面水温依存性(スペシャルセッション「2005/06年の異常な冬について」II)
- P346 大気海洋結合モデル実験による北極振動の太陽活動による変調の可能性
- P216 地球温暖化に伴う北極振動に似た構造の成因 : 成層圏と対流圏の寄与
- B164 地球温暖化に伴う北半球冬季のAO的な海面気圧パターンは成層圏が起源か?(気候システムII)
- 「気象の遠近法-グローバル循環の見かた」, 廣田 勇著, 成山堂書店, 1999年12月, 186頁, 1,600円(本体価格)
- エルニーニョ現象により中緯度大気の応答の異なる原因に関する一考察
- 第23回国際測地学・地球物理学連合総会 : (IUGG2003・札幌)の報告(1)
- C120 成層圏におけるオゾンと気温の11年太陽周期変動 : 3次元化学輸送モデルとECMWF再解析値を用いた40年シミュレーション(物質循環I)
- 近年の冬期北半球循環場の急変とその特徴 : モデルとの比較
- 気象研究所化学輸送モデルの開発(I)
- 5.太陽活動の変動の気候への影響(第23回国際測地学・地球物理学連合総会(IUGG2003・札幌)の報告(1))
- 太陽活動と中層大気の力学過程とその関係に関する研究 : 1996年度日本気象学会賞受賞記念講演
- 最近の赤道成層圏QBOにみるピナツボ火山爆発の影響
- 1999年秋季極域・寒冷域研究連絡会の報告
- 大気・海洋混合層結合モデルの海面水温年々変動(II)
- 全球大気海洋結合モデルでの南極周極波(ACW)
- 大気・海洋混合層結合モデルの海面水温年々変動
- 大気海洋混合層モデルによるCO_2倍増アンサンブル実験 -その2温暖化パターンの形成と自然変動-
- モデル相互比較による6000年前と現在の東アジア域の季節進行
- 大気海洋混合層モデルによるCO2倍増アンサンブル実験
- 大気・海洋混合層モデルによるCO_2倍増時の応答パターンについて
- 北半球冬季の地上気温・海氷被覆と大気圏の十年変動
- 15層大気大循環モデルによる最終氷期の感度実験
- 結合モデルに現れた成層圏・対流圏・海面水温変動の関連性
- 気象研全球結合モデルと観測の大気海洋結合モード
- 15層大気大循環モデルによる気候最適期の感度実験
- 気象研究所大気モデルに現れるMadden-Julian振動のPrognostic Arakawa-Schubert積雲対流スキームに対する依存性
- 冬季北半球500hPa高度と地上温度場の特異値分解解析
- 大気大循環モデルにより明らかにされた近年の冬期循環場の急激な変化の特徴
- 北半球冬季の長周期変動と日本の冬
- 冬季における最近の大気・海洋の長周期変動の特徴について
- 最近の冬季における十年規模の大気・海洋の変動の特徴
- 第2回古気候モデリング相互比較プロジェクト(PMIP)ワークショップに参加して
- エルニーニョに対する中・高緯度大気の異なる応答(II) : 大気大循環モデル
- 全球変動におけるシベリアの役割
- エルニーニョに対する中・高緯度大気の異なる応答
- 冬期大気循環の10年スケール変動に見られる大気内部変動の役割
- 冬季北半球における成層圏循環の年々変動