春播コムギの登熟機構の解明 : 第6報 窒素代謝とその品種間差異および同化産物不足の影響
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概要
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コムギの収量を低下させずに子実中の窒素含有率を高めることは, 粉の品質を高めるために栽培および育種における必要条件である. 本研究では, 春播コムギの窒素代謝を明らかにするため, 子実および栄養器官における窒素含有量の変化を4つの登熟相をもとに調査した. 1993年の試験では, 北海道で育成された早生・半矮性品種ハルユタカ, 九州で育成された早生・半矮性品種農林61号およびドイツで育成された晩生・長稈品種Selpekの3品種を用いて登熟期間中2〜3日に一度の割合でサンプリングを行った. 1992年の試験では, 品種ハルユタカについて3つの遮光処理を設け(初期処理: 開花前2日目から開花後7日目まで群落上面を95%遮光布で遮光, 前期処理: 開花後7日目から14日目まで95%遮光および後期処理: 開花後14日目から21日目まで95%遮光), 1週間に一度の割合でサンプリングを行った. 子実における窒素要求は, 登熟前半(登熟初期, 前期および後期)においてハルユタカが農林61号およびSelpekよりも高かった. このため, 子実中窒素に対する栄養器官からの転流による割合は, 登熟期間を通じてハルユタカで73%と高く, 農林61号およびSelpekでそれぞれ49%および47%と低かった. 子実の窒素含有率は, 成熟期の一週間前に至るまで遮光処理区と無処理区との間に差異がみられなかったが, 栄養器官中の窒素が各処理区とも登熟末期の最後の一週間に子実へと急速に転流したため, 収穫時では遮光処理区が無処理区よりも高くなった. 高収量と高子実窒素含有率とを併せて達成するための戦略として, 開花期までに栄養器官, 特に光合成活性の高い器官に多量の窒素を蓄積し, 登熟初期においてもさらに多くの窒素を土壌より吸収すること, 登熟末期においてはこれらの窒素を子実へと完全に転流させることが必要と考えられた.
- 日本作物学会の論文
- 1996-06-05
著者
-
中世古 公男
北海道大学大学院農学研究科
-
高橋 肇
山口大
-
高橋 肇
北海道大学農学部
-
板垣 洋
北海道大学農学部
-
永尾 浩司
北海道大学
-
土橋 直之
北海道大学農学部
-
中世古 公男
北海道大学
-
高久 俊宏
北海道大学農学部
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